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“むき出しの家族”や
“人間”の面白さ

ドラマだらけな現場から

Vol.06

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伝えたいのは
“むき出しの家族”や
“人間”の面白さ

現場には常にドラマが溢れている!一分一秒を争う中継、真剣勝負のバラエティ収録、ドラマや映画撮影。そして、ドキュメンタリー。映像現場のリアルを伝える“ドラマだらけな現場から”。
第6回は、『巨大マグロ戦争』や『自給自足ファミリー』等、人気ドキュメンタリーシリーズを数多く手がけるプロデューサーの長野高士。長年にわたる家族への密着で立ち会えた感動や、あわや取材出禁寸前のヒヤッとする失敗談……人との繋がり、信頼関係を大事にしてきたからこその刺激的な現場体験を語ります。

取材成功のカギは、丁寧な“ロケハン”

自ら農作物を育て、可能な限り自分たちの力で生活する――そんな“自給自足”する家族の毎日に密着するドキュメンタリーシリーズ『自給自足ファミリー』(※1)。SNSの進化によって取材対象となる魅力的な家族を見つけやすくなったというが、事前取材は欠かせない。

全国を駆け巡り、トラブルも笑いに変える!

『自給自足ファミリー』の取材は、ディレクターが一人で現地に行き、1週間ほど滞在するスタイルが定番。でも取材前には必ずロケハン(事前の下調べ)を行い、できるだけ僕も同行するようにしています。大事なのは、取材対象となる候補の方に直接会って、心を開いて話をすること。取材対象の家族は全国にいるので、移動はなかなかハード。レンタカーで東京→高知→福井→長野と、日本中を飛び回ることも! 移動中やロケ中は安いビジネスホテル泊まりも“あるある”です。

去年のロケハンでは、車が脱輪して焦ったこともありましたね(笑)。でも現地の方が助けてくれて無事脱出。こういうハプニングも含めて、現地に足を運ぶからこそ得られるものがある。だから“本音”や“素顔”を引き出せるんだと思います。

あわやお蔵入り!? 密着取材のリアル

テレビに慣れた芸能人ではなく、一般の生活者を追いかけるからこそのハプニングは、ドキュメンタリー番組ならではだ。

「もう撮らなくていいでしょ」

現地にいるディレクターから「取材中に、密着相手から“もう撮らなくていいでしょ”と言われた」と焦った声で電話がかかってきたことがありました。おそらく、生活に密着されるという“非日常”に、心身共にストレスを感じられてしまったのだと思います。相手の方は放送に出たくないわけではなかったので、撮影した分は無事に番組に使わせてもらえましたが、あの瞬間は「お蔵入りになってしまうかも」と肝が冷えましたね。

密着取材って、やっぱり難しい。密着相手の方とディレクターの相性もありますしね。改めて、人と人の関係性を良好に保つことの難しさを痛感しました。取材は技術だけじゃなく、信頼関係がすべてなんですよね。

長期に渡る密着取材で、家族の成長に感動!

『巨大マグロ戦争』(※2)も長野が手がけるドキュメンタリー作品の一つで、マグロ漁師たちの生き様とその家族の物語に焦点を当てた人気シリーズだ。年月をかけて取材を続けるからこそ出会える感動の瞬間がある。

親戚のような気持ちです(笑)

2025年1月の放送にも登場した細間正樹さんは、2006年に初めてお会いして以来、ずっと取材を続けています。最愛のパートナーを亡くしてから、男手一つで2人の娘さんを育てる立派なお父さん。その父親としての姿にもずっと密着させてもらっています。

長女の娘さんが看護師を目指したきっかけも、忘れられません。お母さんを亡くしたとき「自分は何もできなかった」という後悔から、医療の道を選ばれたんです。人生って、本当にいろいろありますよね。来年はどうなるのか——。子どもたちの成長を見届ける気持ちは、まるで親戚のよう(笑)。これからも細間さんの漁師としての生き様はもちろん、家族にもそっと寄り添いながら、その歩みを追っていきたいと思っています。

漁師たちとの信頼関係を築く長野流のやり方

番組に出てもらうために漁師を説得するのはとても難しいという。密着取材が許されるまで、数年をかけて関係作りを行うことも……! 

心を開く必殺技はない

基本的に取材に断られた相手に無理強いはしませんが、時間をかけて対話をするうちに心を開いてくれるケースもあります。逆に、一緒にお酒を飲んで、やっと仲良くなったかなと思っても、次に会ったときにはまた心の壁を感じることも(笑)。心を開いてもらうまでにはものすごく労力と時間がかかりますが、それ以上に「追いかけたい」と思わせる魅力的な人たちがたくさんいるんです。それに、相手の漁師さんも、自分だけでなく家族をさらけ出す覚悟が必要。慎重になって当然です。ドキュメンタリーの制作全般に言えることですが、密着させてほしいというのは僕らの都合でしかない。「テレビで放送しても、俺たちには何のメリットもない」と言われてしまったこともあります。でも、漁師が命がけでマグロに向き合う姿を伝えることで、大間のブランド力や地域の活性化に繋がるはず。そんな想いもあります。

相手の心を開く必殺技はない。自分たちの番組作りへの想いを真摯に伝え続けて、相手に合わせて対話を重ね、時間をかけて信頼関係を築く。地道なやり方ですが、それしか方法はないと思っています。

「なぜ来なかった?」 築いた信頼関係が揺らいだ瞬間

長野には、そんな時間をかけて築いた関係性が崩れかけてしまった忘れられない失敗もあるという。

出禁にならなくて良かった…

3年前になりますが、新年恒例の初競りが行われる1月5日、忙しさを理由に大間に行けなかったことがありました。すると、密着させてもらっていた漁師さんが獲ったマグロが“初競り一番マグロ”になって大騒ぎに。後から「他のテレビ局は取材に来ているのになんでお前らは来ないんだ」とお叱りを受けてしまって……。誰か一人でもスタッフが撮影に行っていればよかったのに、ただただ平謝りするしかありませんでした。危うく取材出入り禁止になりかけましたが、なんとか許してもらえ、今も仲良くさせてもらっています。築き上げてきた関係が一瞬で崩れかけたあの瞬間は本当にヒヤッとしました……。大きなチャンスを逃した悔しさと、信頼を失いかけた反省が、今でも胸に刻まれています。

無人島で遭遇! 巨大牛が迫る刺激的な体験

密着の対象は、人間であるとは限らない! 『THE 無人島』(※3)では、こんなに刺激的で楽しい(!?)出会いも。

言葉が通じない相手の怖さ

“牛しかいない島”の探索は、かなり面白かったですね。たまに密猟を企んで島を訪れる人がいるようで、牛たちは人間をかなり警戒しているんです。僕らが行ったときは島に10頭ほどいて、その中の1頭がとにかく大きかった。何百キロあるんだろうという巨体で、僕らを見つけるなりドドッとこっちに向かってきたんです。

だんだん距離が縮まるにつれ、「これ、やばくね!?」という状況に。かなり焦りましたが、帯同していた現地のコーディネーターに「慌てるな」と言われて、「いや、慌てるだろ!」と(笑)。幸い、牛が途中で諦めてくれて何事もなかったですが、あの迫力は今でも忘れられません。言葉が通じない動物を相手にする怖さ、身に染みましたね。

“ガスト”で天啓!? 企画誕生のジンクス

様々なジャンルのドキュメンタリーを手がける長野。新しい番組の企画を考えるときに心がけているという彼らしいジンクスとは?

ネタは天から降ってきます(笑)

普段から企画のネタをメモしたりは……しません。これだ!という企画は、頭に“天啓”が降りてくるタイプです(笑)。ただ、僕にはちょっとしたジンクスがあって、ファミリーレストランの“ガスト”で会議をした企画は、なぜか通ることが多い。実際、『THE 無人島』も“ガスト”で作家さんと話しているときに生まれた企画です。三輪自動車で旅する『懐かしミゼットで行く!北関東ドライブイン!レトロ探し旅』(※4)も、「地方のおいしいラーメンが食べたい」という欲から思いついた企画だったかな。“ガスト”での打ち合わせのおかげで、これまで20本くらいの企画が無事に通っています。

心に残る“感動の涙”を届けたい

密着取材をすることが多いからこそ、「家族って面白いな」とよく思います。家族は生きていく上での中心であり、それは日本でも海外でも共通のもの。誰もが自分と重ね合わせて見ることができるからこそ、魅力的な家族の姿に密着したいです。ドキュメンタリーは、カメラに収めたい場面が、密着相手にとって見せたくない場面だったりすることも多々あって、そのせめぎ合いが難しい。でも、むき出しの家族の面白さや人生訓みたいなものが、番組を通じて伝えられたら最高ですね。
ただ、自分は“超ドキュメンタリスト”ではありません。どこかにエンターテイメント性をプラスした“ドキュメントバラエティー”が得意だし、自分自身もそれが好きなんです。涙一つ取っても、苦しみの涙ではなく、感動の涙を映し出したい。人間味があって何が起きるかわからないワクワク感のある番組を、これからも作っていきたいと思っています。

※1 『自給自足ファミリー』
2021年よりBSテレ東で放送されているドキュメンタリーシリーズ。究極の田舎暮らしを実現している個性豊かな家族の自然に寄り添った生活や、たくましく生きる姿に密着する。
※2 『洋上の激闘! 巨大マグロ戦争』
テレビ東京で20年以上続く、人気ドキュメンタリーシリーズ。人生とプライドを賭けてマグロを狙う漁師たちの姿とその家族の物語を追いかける。
※3 『THE 無人島 上陸したら…超絶景&超発見の連発SP』
2020年12月~2022年9月、テレビ東京で3回放送。全国に6400以上あるという無人島に注目するドキュメントバラエティー。人が足を踏み入れていないからこその魅力や知られざる歴史を映し出す。ちなみに“牛しかいない島”は長崎県・五島列島のひとつ「葛島(かずらしま)」を指す。
※4 『懐かしミゼットで行く!北関東ドライブイン!レトロ探し旅』
2014年12月、テレビ東京で放送。元・巨人軍の定岡正二と宮本和知が、1962年(昭和37年)に作られたオート三輪「ミゼット」に乗り込み、5日間かけて、レトロ感漂うドライブインをめぐりながら北関東を横断する旅を楽しむ。

長野高士

制作センター 第2制作部 プロデューサー
『めざましテレビ』等、報道番組のディレクターを経てプロデューサーに。様々なジャンルのドキュメンタリー番組を中心に手がける。
(2025年3月取材)