創造職人Files
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「やりたくない」と感じたら迷わずやる!
挑戦にワクワクしている自分がいる
Vol.07 総合演出 吉村慶介篇
クリエイターを通して職種にフューチャーする“創造職人Files”。第七回は第2制作部の総合演出、吉村慶介。情報バラエティを専門とする第2制作部にいながら、ドラマ演出も手掛ける異色の存在。指名でお声がかかるという、カリスマ演出家吉村が想うバラエティとドラマの演出とは。
自分が創った作品で面白くないものは一つもない
現在、手掛けているバラエティとドラマの割合は50%、50%。バラエティでは、それぞれのVTRを演出するディレクターが何人もいるので彼らを総合演出として束ね、番組全体のトーンを整え、一本の番組を創り上げます。客観的な視点を持つ事、そして明確に方向性を示す事が大切だと思っています。僕は大体の場合、最初の会議で「この番組はこういうところを面白がりたい」ということを皆に話します。総合演出のやり方も色々あると思いますが、僕が大切にしているのは謙虚である事。自分は特に優れているわけではないので、それぞれのディレクターさんや作家さんの意見を謙虚に受け止める姿勢を忘れないようにしています。だから皆が臆せず発言しやすいチームづくりも大切だと思っています。
ドラマも同じです。僕一人では何もできません。それぞれの部署にプロフェッショナルがいるので、自分がやりたい事をスタッフ皆に理解してもらえるようにしっかりとコミュニケーションを取ります。そして最終的な決断に対しては、自分が全て責任を取る。それが役割だと思っています。孤独を感じる事もあります。ずーっと番組の事を考え続けているんですよ。こんなに番組の事を考えているのは自分くらいだろうな、なんて思ったりもして(笑)。「最終的に自分が出した結論は正しかったのかな?」と自問自答もします。創った番組は自分の子どものようなもの。最後の最後までどう世の中に送りだすか悩みます。でも親バカなんですよね。「自分が創った作品に面白くないものは一つもない」そう信じています。
ドラマ志望がバラエティに配属!笑いの難しさに楽しさを見い出す
若松節朗監督(※1)に憧れて、ドラマが創りたくて共テレに入社しました。一年目に『熟年離婚』(テレビ朝日系)で若松監督とご一緒した時は最高に嬉しかったです。それなのにその後、バラエティの第2制作部に配属されてしまった。当時の社長が総合的なテレビマンを育成するために僕の同期を全員シャッフルする、という方針で第2制作部に転属したのですがその後、その社長が変わってしまい、そのままになってしまいました(笑)。最初はふてくされていましたが、人を笑わせるのはメチャクチャ難しい…でも面白い!という事を知り、そこからその難しい事を達成した時の喜びに目覚めました。自分が創ったVTRを見た人が笑ってくれるって、最高に嬉しくて楽しいです。そしてバラエティ番組は番組制作の全ての工程に立ち会う事ができるので、とても勉強になりました。
ですがやっぱりドラマが撮りたいという想いが強かったので企画書を書き続けました。そうしたら上野樹里さん主演で『ヨーロッパ企画の26世紀フォックス』(フジテレビ系)(※2)の作品の演出をさせてもらえる事になり、それが【第31回 ATP賞テレビグランプリ2014 ドラマ部門 奨励賞】を受賞しました。受賞がきっかけで続編も制作する事ができました。その後は、ありがたいことに脚本家の方やテレビ局の方から指名を受けて作品を撮らせていただく事も増え、2020年には『スナイパー時村正義の働き方改革』(CBCテレビ)(※3)で【2020年日本民間放送連盟賞番組部門 テレビドラマ番組 最優秀賞】と【令和2年度(第75回)文化庁芸術祭 優秀賞】を受賞しました。その年の民放ドラマ日本一になったんですよ!深夜枠全三回の30分ドラマで主演2人だけで展開していくワンシチュエーションものだったので、視聴者が飽きないように実験的な演出の工夫をしました。予算がそんなにある番組ではなかったので、ロケ場所探しから何から何まで、やりました。大変だったけれど、すごく楽しくて。全話納得できる手ごたえを感じられる作品でした。賞がもらえて本当に嬉しかったです。
見た人の感情をデザインできる演出家になりたい
演出家として必要な資質は“視聴者が番組を見た時の感情をデザインできる事”ではないでしょうか。VTRを見た時に、人がどんな感情になるのか想像できる事は大切だと思います。TVの向こう側にいる人の感情をデザインするためには自分自身が何かを見た時に、どういう気持ちになったのか記憶してなんでそう思ったのかを考えておく事。僕は瞬間的な面白さよりも、構成的に面白いものを作るのが好きです。そこの感覚が合う人と仕事がしたいです。日常会話の中で「この人、面白いな」と感じたら、一緒に仕事をしたいと思いますし、実際にそういうスタッフに恵まれています。
ドラマの演出とバラエティの総合演出に明確に違いがあるとは思いません。同じように客観性と主観性のバランスが大切だと思います。むしろバラエティだからドラマだからというより、作品が違えば全てがまったく違うので。一つひとつの作品に真剣に向き合う。考えて、考えて、考え抜く。それだけです。
不安だ、逃げたい、怖いな、と思うほどやる
「この仕事、不安だな」と思う時ほど、やった方がいいと思っています。新しい事って怖いですよね。だからつい逃げたくなる。同じ事をしていた方が楽ですしね。自分に自信もないし(笑)。けれど無理やり挑戦するって決めています。自分を強制的にレベルアップできるからです。飽きっぽい性格なので常に新しい事をしていたいという想いもあります。辛いですが挑戦しているとワクワクしている自分もいます(笑)。2023年、初めてNetflixコンテンツで恋愛リアリティショー(※4)の総合演出に挑戦しました。『ラブデッドライン』という作品です。初めてのことばかりでとても苦労しましたし、その予算感覚の違いにも驚きました。Netflixはその演出が面白いと納得すれば、やらせてくれる雰囲気があります。今回は1分くらいのオープニング映像だけのために、沖縄で女性全員にウエディングドレスを着せて、走っていただきました。結構お金、かかったんじゃないですかね(笑)。お金がかかっている分、プレッシャーはかなりありましたが、いい感じになったと思います。
日本のエンターテインメント業界について、僕が何かを言える立場ではないですが、世界に発信できる作品が増えていくといいなと思います。優秀なスタッフがもっと稼げる業界になってほしいです。
子供の頃に想い描いた大きな夢は「映画監督になる」こと。まだまだその夢までは遠いですが、夢ってどんどん更新していくものだと思うんです。三年目でバラエティに異動したときは、ドラマの演出をするという夢はほぼ諦めかけていましたが、叶いました。そしたら、また次の夢が自分の中で生まれてくる。その繰り返しです。そんな感じで小さな夢を更新し続けて、いつか大きな夢も叶うといいなと思っています。
※1 若松節朗
元・共同テレビジョン所属のドラマ演出家・映画監督。代表作に『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)『お金がない』(フジテレビ系)、映画『ホワイトアウト』映画『沈まぬ太陽』映画『Fukushima 50』他、多数。
※2 『ヨーロッパ企画の26世紀フォックス』
フジテレビ系。2014年放送。上野樹里主演。予算はないが夢はある!映画制作会社が新しい映画に挑戦する。CG全盛期時代にあえて全て手作りの“新しいSFドラマ”。
※3 『スナイパー時村正義の働き方改革』
CBCテレビ。2020年放送。主演は高杉 亘、高田夏帆のワンシチュエーションドラマ。過去何度も日本の危機を救ってきた敏腕スナイパーが自身の働き方改革に挑む。“働き方改革”という社会問題を取り上げ風刺の効いたストーリー展開が高い評価を得た。アマゾンプライム・ビデオでも配信中。
※4 『ラブデッドライン』
Netflix恋愛リアリティショー。複数の男女が旅をしながら結婚相手を探す。しかし、その旅には「デッドライン」という残酷なルールがあった。2024年1月23日配信。
吉村慶介
制作センター 第2制作部
総合演出
2005年入社。第1制作部で2年間、ドラマの助監督を務めたのち、第2制作部に異動。2020年、演出した『スナイパー時村正義の働き方改革』で【日本民間放送連盟賞 最優秀】など様々な賞を受賞。バラエティでも2022年に演出した『経験は知識に勝るのか!?クイズ!カズ&宇治原をぶっ飛ばせ』が【ATP賞テレビグランプリ 情報・バラエティ部門 優秀賞】を受賞。他にも受賞作多数。
(2023年12月取材)