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『マルモのおきて』橋本芙美プロデューサーインタビュー (後編)

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Vol.06

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クランクイン前日に起きた東日本大震災。その中で考えさせられたエンタメを作るということ
『マルモのおきて』橋本芙美プロデューサーインタビュー (後編)

日本人なら誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第三回に登場するのは主題歌も大ヒットし、芦田愛菜さん、鈴木福さんの役者としての地位を不動のものにした、『マルモのおきて』プロデューサー橋本芙美。
前編では、なぜ独身男が双子の親代わりになり、犬が喋るという設定のドラマができたのか、芦田愛菜さん、鈴木福さんの役者魂、阿部サダヲさんとの絆等について聞きました。後半はクランクイン前日に起きた東日本大震災のこと、ドラマタイトルやエンディング曲「マル・マル・モリ・モリ!」秘話など盛りだくさんでお届けします。
前編はこちら

胸に葛藤を抱えながら「やるしかない!」

― クランクイン前日に東日本大震災が起きたと聞きました。

橋本プロデューサー:あの時、私は打ち合わせでお台場のフジテレビにいたのですが、すぐにスタッフやキャストの安否確認を行いました。愛菜ちゃん、福君は当時、幼稚園にいたと思います。皆さん無事だったのですが、阿部さんは都外にいて帰れなくなったと聞きました。このまま撮影をするのか話し合いがもたれて、とりあえずクランクインは1日ずらすことになりましたが、その後は続行という結論になりました。レインボーブリッジが封鎖されてしまったのですが、ロケ前日で衣裳などの積み込みもあってマイクロバスが2台、湾岸スタジオに来ていました。そこで湾岸スタジオやお台場にいたスタッフは22時頃まで湾岸のスタッフルームで待機し、そこから2方向に分かれてバスで帰宅することにしました。何時間もかけてなんとか家の近所まで送ってもらって全員帰宅できました。私が自宅に着いたのは夜中の3時でした。スタッフルームで待機中にみんなの食料を買いにコンビニに行った時、棚にほとんどなにもなかったことを鮮明に覚えています。

- 当時は原発の問題もあり世の中に暗く重い空気が流れていました。そんな中、撮影現場はいかがだったのでしょうか?

橋本プロデューサー:様々な不安と混乱がある中、スタッフもキャストも一致団結していました。余震や計画停電、原発事故の放射能問題がある中、子どもや犬を外で撮影させていていいのか、という葛藤もありました。でも「やるしかないんだ!」って、みんなで内心は悩みながらも進むしかありませんでした。

フルーツポンチ作りに陶芸教室!家族のような強い絆

― 愛菜ちゃんや福君がみんなにフルーツポンチをふるまったと聞きました。

橋本プロデューサー:初回から2話3話あたりまでは視聴率が平行線だったのですが、回を重ねるごとに徐々に上がってきて、6話あたりで、次も数字が上がったら愛菜ちゃんと福君がフルーツポンチをみんなにふるまいたいという話になりました。私とアシスタントプロデューサーが材料を準備して、愛菜ちゃんと福君が材料を混ぜて、器に盛り付けて、みんなに配りました。

― とっても可愛いです!楽しそうですね。

橋本プロデューサー:他にも陶芸に造詣が深い世良公則さんが、スタジオに材料や道具を全部持ってきてくださって陶芸教室を開催してくれました。土をひねってそれぞれ作りたい器を作っているときに「土は思った以上にそぎ落としていくものだ」と教えてくださいました。そして、みんなが作ったものをお知り合いの窯元さんに送って焼いてくださいました。焼き上がったのがちょうどその年の夏、最初の『マルモのおきて』のスペシャルドラマを撮影している時で、しばらくスタジオの廊下にみんなが作ったものを展示していました。

― 本当に仲が良くて雰囲気がいい現場だったということが伝わってきます。

橋本プロデューサー:愛菜ちゃんと福君は誕生日が近いので、現場で二人の誕生日のお祝いもしました。誕生日ケーキをプレゼントして現場でお祝いしたのですが、デコレーションを、ドラマの中でマルモが二人に作ってランドセルにつけたワッペンの形にしたんです。二人ともとても喜んでくれました。多くのドラマが一緒に長い時間を過ごすので家族のような雰囲気になるのですが、『マルモのおきて』は特別それが強かったと思います。もともとほとんどのスタッフは『フリーター、家を買う。』(※1)から一緒で、すでに団結していたのですが、『マルモのおきて』でキャストの皆さんも含めてさらに絆が強くなりました。今でもマルモのメンバーとはみんな繋がっています。

最終話も設定もエピソードもすべて作りながら決めていった

― どの回も感動と笑いに満ちていましたが、ドラマがスタートした時に最終話はもちろん、どんな展開にするかきっちりとは決めていなかったそうですね。

橋本プロデューサー:ある程度の設定ははじめに決めていましたが、撮影をしながら、最終話の内容や、お母さんが2人に会いにくるということも決めていきました。

― ムックがなぜしゃべるのか、という設定もですか!?

橋本プロデューサー:はい(笑)。はじめムックは、双子の死んだお父さんが乗りうつったという設定も考えましたが、最初から決め切ってしまうと、ムックの言動や、マルモとの関わりが制限されてしまうと思ったんです。脚本は櫻井剛さんと阿相クミコさんのお二人だったのですが、お二人の相性がとても良かったのと、櫻井さんに幼いお子様がいらっしゃって子どものエピソードへのアイディアがたくさんあって。子どもの言い間違えで護(まもる)を“マルモ”にするというのも櫻井さんの発明でした。もともとタイトルの『マルモのおきて』は『高木家のおきて』だったんです(笑)。

― そうだったのですね!エンディングテーマの『マル・マル・モリ・モリ!』とダンスはどういったアイディアから生まれたのですか?

橋本プロデューサー:ホームドラマを家族みんなで楽しんだ後にエンディング曲を見て、みんなで踊れるものにしたいねとなりました。「おしりかじり虫」や「だんご3兄弟」みたいに、みんなに親しまれる歌がいいねとなって。

娯楽の意味、エンターテインメントの力を感じ、さらに世界へ通じる映像制作へ

― スペシャルドラマが2回も放映されるほど社会に受け入れられたドラマですが、『マルモのおきて』は橋本さんにとってどんな存在ですか?

橋本プロデューサー:娯楽の意味を考えさせられたドラマになりました。とても大切な作品で、この仕事をやる意味、やり続ける意味も改めて考えさせてくれました。東日本大震災の被災者の方たちが食べるものも寝る場所にも困り、大切な人を亡くしたりもしている中で、現地でボランティアをするわけでもなく、娯楽であるドラマを撮り続けていいんだろうか?と葛藤しましたが、被災地の皆様から「マルモを見て元気が出た」「生きる活力になった」という声をたくさんいただいて、“心の栄養”も大切なんだと勇気をもらいました。宮城県に丸森(マルモリ)町という場所があり、とても親近感をもっていただいてスタッフルームにお手紙や名産品を送ってくださったことも現場にとって大きな励みとなりました。

― 嬉しいですね。エンターテインメントの力を感じますね。今後、共テレでどんなチャレンジをしていきたいと思いますか?

橋本プロデューサー:自分が面白いと、これはなんとしてでもやりたいと強く思ったことを世界に通じるコンテンツとして世に出していけたらと思っています。そのためのノウハウも積み重ねていかなければいけませんし、それにチャレンジできる会社であって欲しいと思います。どんどん大きな仕事を実現できる場所であるように私もチャレンジし続けたいと思います。

前編はこちら

2011年 エランドールプロデューサー奨励賞『フリーター、家を買う。』

※1『フリーター、家を買う。』…原作は有川浩著「フリーター、家を買う。」(幻冬舎刊)。二宮和也主演で2010年10月~12月期のドラマとしてフジテレビ系で放映。
第28回ATP賞テレビグランプリ2011ドラマ部門「最優秀賞」、東京ドラマアウォード2011 連続ドラマ部門グランプリ、プロデューサー賞、エランドールプロデューサー奨励賞、など数々の賞を獲得。

橋本芙美

制作センター 第1制作部 専任副部長・プロデューサー

スタッフ『マルモのおきて』

脚本:櫻井 剛 阿相クミコ
音楽:澤野弘之 山田 豊
編成企画:瀧山麻土香 水野綾子
プロデュース:橋本芙美
演出:河野圭太 城宝秀則 八十島美也子

『マルモのおきて』あらすじ

阿部サダヲが演じる、文具メーカー「あけぼの文具」のお客さま相談室に所属する独身アラフォー男・高木護(まもる)が親友の死をきっかけに、親友が男手ひとつで育ててきた双子の子ども(芦田愛菜・鈴木福)と、双子がひろってきた人間の言葉を話す(!)犬のムックと一緒に暮らすことになるというファンタジックストーリー。突然始まってしまった、3人と1匹の「にせものの家族」。双子が護のことを間違えて「マルモ」と呼び、さまざまな出来事を乗り越えながら「家族のおきて」が毎話できてゆくという『マルモのおきて』。

主なキャスト

阿部サダヲ
芦田愛菜
鈴木 福
ムック(犬)
比嘉愛未
伊武雅刀
世良公則