創造職人Files
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テレビドラマは“作品”ではなく“番組”。
自分の企画でいつか大ヒットを飛ばす
Vol.06 演出 山内大典篇
クリエイターを通して職種にフューチャーする“創造職人Files”。第六回は第1制作部の演出、山内大典。テレビをつければ無料で見ることができる“テレビドラマの世界”が大好きで大学時代は役者もやっていたという山内のテレビドラマへかける想いとは。
監督の色を見極めてプロデューサーがアサイン
監督は現場の責任者。脚本や物語の核となる要素がもっと面白くなるように、視聴者に好きになってもらえるように登場人物のキャラクターを掴み、ドラマを膨らませていきます。逆算して引くところは引いたり、削ったり…その作品のコンセプトやトンマナ(※1)を考えて演出します。プロデューサーが監督をアサインするのですが、監督によって得意分野があるので、そこを見極めて任されていると思っています。例えば“恋愛もの”でもコメディ色が強いものと恋愛要素が強いものがありますよね。僕でいうとコメディ色が強いものが得意なので、そういった作品の監督をさせていただくことが多いです。あとは助監督時代に“刑事もの”や“医療もの”を多く手掛けていて個人的には好きでもあるので、自分で企画を考える時はそういったテーマが多くなりますね。
見る人が見れば「これは○○監督だ」とわかる
大学時代に演劇をやっていて役者をやっていました。すごく楽しい世界だったけれど役者として食べていけるほど自分には実力もない…そんなに甘い世界でもないって分かってもいた。それならば制作側でこの世界に携わりたいと共テレに入社しました。もちろんドラマ監督志望です。なのに最初に配属されたのは情報バラエティ班(笑)。当時の共テレは今のように情報バラエティ番組を多く制作していなかったので、なかなか厳しい状況でした。「ドラマの監督になれると思って入社したのに…」って転職も考えていましたね。ですが、やっているうちにバラエティの仕事も楽しくなってきて。当時、『あいのり』を担当していたのですが海外ロケが楽しくて。「もうちょっと続けたいな」と思いだした矢先にドラマ班へ移動に。ドラマ班で助監督としてフォース(4番手)、サード(3番手)、セカンド(2番手)、チーフ(1番手)として実績を積み重ね、2015年頃から監督として専業するように。監督にもチーフとセカンドがあります。チーフが全体の方向性等を決定していくので、セカンドとして入った時にはチーフの演出を壊さないようにしながら、自分の納得のいく面白さを追求します。連ドラは複数の監督でそれぞれの話を撮っていくことが多いので、見る人が見れば「あ、これは○○監督だな」ってわかります。同じカメラマンが撮っていても監督が違うと出てくる画は変わる。僕はガイ・リッチー監督(※2)の演出が好きで、特に『スナッチ』のカット割りが好きです。なので細かいカット割りを好んで演出の中に入れ込むことが多いかもしれません。
自分で企画を考える時には原作ありきではなく放送される局の枠の特性を考えます。一時期、テレビドラマは漫画や小説の原作物が多かったのですが、ここ2~3年でオリジナル作品が増えてきました。時代の流れとともに求められるものは変わります。それぞれの局の番組枠の特性を把握しながら求められる企画を通せたらと思います。自分で企画したものを演出するのがやっぱり最高ですから。
最初の視聴者であるオフラインマンに教えられることも
若手の時は独りよがりな演出をしていたと思います。客観性に欠けていたというか…カメラマンや照明さん、脚本家等、それぞれのプロフェッショナルがそれぞれの想いを胸に仕事をしています。もちろん役者も。ある時、打ち上げの席で脚本の解釈について役者さんと朝まで語ったことがありました。当時、解釈が僕と役者さんとで違っていたんです。しっかり話をして分かってもらえましたが、打ち上げの席でもまだ役者さんはその役として脚本の解釈を考えていたわけです。当たり前ですが、みんな本気で仕事に向き合っているんですよね。
自分一人が考えることってたかが知れていると思います。本打ち(※3)をして、撮影準備をして、撮影して、編集する…たくさんの人の手が入っていくことでどんどん面白くなる。その過程が楽しいんです。撮影したものを尺におさめるように編集しますが、9割はオーバーしています。少々のオーバーなら間をつまむことで済みますが、シーンをまるまるカットしなければいけないこともある。どこをどう切るか、残すか、を監督が決断しなければいけません。僕が編集をする前にオフラインマン(※4)が編集をしてくれるのですが、その時、自分では想像しなかった繋ぎ方をしてくれることがあります。監督は思い入れもあるし、作品に深く関わっているので、どうしても一般視聴者の視点を忘れてしまうことがある。そんな時に、最初の視聴者としてオフラインマンが面白いと思う編集をしてくれると目から鱗が落ちる思いをします。それぞれのプロフェッショナルがプロの仕事をするから面白いドラマが生まれるんですよね。
テレビをつければ無料で見られる“テレビドラマ”が大好き
僕は最初がバラエティ班だったからか、ドラマを“作品”とは捉えていません。あくまで“番組”だと思っています。テレビ世代ということもあり、テレビドラマが大好きなんです。だって無料で見られるじゃないですか(笑)。テレビをつければ無料で見られるから多くの人に見てもらえる。
自分が企画したテレビドラマで大ヒットを出すのが夢です。「働き方改革」もあり、時間や予算に制限がある中でいいものを創るって本当に大変です。でも監督だけは最後まで諦めちゃいけないと思います。スタッフやキャストに納得してもらい、一丸となって良いドラマにするためにリーダーシップを持って粘り強く頑張る。僕のキャラで上から目線の監督になったら誰もついてきてくれませんから(笑)。輪を大切に、コミュニケーションを重視しながら、これからも良質な番組を創り続けたいです。
※1 トンマナ
「トーンマナー」の略称。映像制作において使用される時は、 映像の明るさや暗さ、雰囲気、色調を作品を通して統一して表現するための要素を指す。
※2 ガイ・リッチー
イギリス出身の監督・脚本家。『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』は1998年のイギリスの興行収入で年間1位を記録。『スナッチ』でも高い評価を得た。アメリカの歌手、マドンナの元夫。
※3 本打ち
脚本をより良いものにするために、脚本家、プロデューサー、監督等で行う打合せ。
※4 オフラインマン
放送尺に近くなるまで絞り込んでいく仮編集を行う人。対して「オンラインマン」は本編集を行う。
山内大典
制作センター 第1制作部
演出
2005年入社。ドラマ演出畑を歩み、2015年のフジテレビ土ドラ「she」で連続ドラマのチーフ演出デビュー。これまでの演出作品は、『しもべえ』(NHK)、『世にも奇妙な物語』『この素晴らしき世界』(フジテレビ)、『個人差あります』(東海テレビ)、映画『半径1メートルの君〜上を向いて歩こう〜』など。
(2023年9月取材)