HOME>共テレサーチ>共テレコード>中身は20歳!?愛菜ちゃん、福君の抜群の記憶力と集中力で伝説のドラマが誕生
『マルモのおきて』橋本芙美プロデューサーインタビュー (前編)

共テレコード

Vol.05

Special contents

Kyotele search

中身は20歳!?愛菜ちゃん、福君の抜群の記憶力と集中力で伝説のドラマが誕生
『マルモのおきて』橋本芙美プロデューサーインタビュー (前編)

日本人なら誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第三回に登場するのは主題歌も大ヒットし、芦田愛菜さん、鈴木福さんの役者としての地位を不動のものにした、『マルモのおきて』プロデューサー橋本芙美
『フリーター、家を買う。』(※1)の大ヒット後、犬が喋るドラマがやりたいと思って企画を温めていたという当時のお話から舞台裏のお話までたっぷり聞きました。
後編はこちら

爆死覚悟で臨んだ日曜夜枠

― 犬が喋る、独身男が二卵性双子の親代わりになる等、設定が奇想天外な『マルモのおきて』ですが、どういったところから着想を得られたのでしょうか?

橋本プロデューサー:だいぶ前に、遠藤憲一さんが犬の声を演じられた『イヌゴエ』という映画を観て、面白いなぁと。その作品にヒントを得て、犬が喋るドラマがやりたいなぁと思っていました。はじめは恋愛下手な冴えない20代の女性トリマーが喋る犬から恋愛指南を受けて成長していくストーリーを考えていました。最初企画を話した時には周囲に笑われたのですが、日曜夜枠のドラマが決まり、その裏が超人気ドラマ『JIN―仁-』の続編をやることが分かり爆死覚悟で挑むことになったのです(笑)。それでもう、「やりたいことを思い切ってマン振りしてこい!」となりました。

- 最初は恋愛ドラマを考えていたけれど、ファミリーものになったのですね。

橋本プロデューサー:当時のフジテレビ編成企画の瀧山さんと水野さんと、女性三人でどんなドラマがいいか練っていく中で、「日曜夜なので家族で楽しめるドラマがいいよね」という話になり、「『寺内貫太郎一家』(※2)のようなホームドラマもいいね」という案が出ました。

- 向田邦子さん脚本の伝説のドラマですね!

橋本プロデューサー:はい(笑)。そこから独身男が三人兄弟の親になるのはどうかという話になったり、子どもの年齢に幅があると話の展開がどうなるのか検証したり、頑張れば家のお手伝いができる位の年齢がいいね、など色々と話し合っている中で、これは子役が肝だということになりました。並行してキャスティングを進めて、まずはトップ子役である芦田愛菜ちゃんと鈴木福君にオファーをし承諾をいただいたので、「二人ともやってくれるなら二人だけの姉弟にしよう!」となり、双子の設定になりました。顔は似てないけど二卵性なら大丈夫だろうと(笑)。二人にお願いできて本当に良かったです。

阿部サダヲ、芦田愛菜、鈴木福、ムック。奇跡の家族の誕生

― 本当にお二人の演技が最高でした。愛菜ちゃんと福君はドラマの設定と同じ年齢でしたね。子どもたちと犬がメインという現場はどんな雰囲気だったのでしょうか?思い通りにならないこともありましたか?

橋本プロデューサー:それがまったく問題がなかったんです。河野監督は動物ものの映画などを撮られていたこともあり動物の扱いをよくご存じで、子どもたちに対しても厳しいところもありますが、とても優しくて。何より、愛菜ちゃんと福君があの当時6歳にしてすでにプロフェッショナルでした。長い日は午前中から20時まで撮影をしていたのですが、すごい集中力でまったく途切れることがなくて。当初は撮りこぼすこともあるだろうな、と予想していたのですが全くそんなことはなく、とてもスムーズで大人のペースで進みました。もちろん子どもなので休憩時間にはしゃいだり、ふざけたりはするのですが、本番が始まったらピシッと役に入る。本当に素晴らしかったです。結局巻いて終わった日も多かったです。

― 阿部サダヲさんとの息もピッタリで、本当に仲が良いんだろうなあと感じました。

橋本プロデューサー:阿部サダヲさんは河野監督が以前にご一緒したことがあり、コメディもヒューマンもシリアスも幅広く演じられる俳優さんということで監督からの推薦もあり、「マルモにピッタリだね!」となりました。当時から阿部さんはものすごくお忙しくて、愛菜ちゃんと福君と最初に会ったのはポスター撮影だったと思います。ですが子ども目線で二人の間に入ってコミュニケーションを取ってくださって。本当に子どもたちへの対応が神!で、すぐに家族のようなあったかい雰囲気になりました。

― 喋る犬、ムックもちゃんと演技していてびっくりしました。

橋本プロデューサー:ドッグトレーナーの方から「演技を仕込める心身ともに丈夫な犬がいる」ということで推薦されたのがムックでした。ムックはミニチュアシュナウザーという犬種なのですが、もともとは猟犬ということもありとても賢い。ただ、長期間撮影に参加するとなると体力的な不安もあったので、当時は影武者を用意しようとしていたのですが、トレーナーさんから「ムックは強いから大丈夫」と言われて。撮影期間中は飼い主さんとは離れてドッグトレーナーさんと暮らしていました。なので結局、飼い主さんにはお会いしていないんです。当時ムックは1歳でしたが、本当に最後までムック一匹だけで完走してくれました。

― シュナウザーはおじいちゃんのような長いひげのイメージでしたがムックは丸くて可愛いカットでしたね。

橋本プロデューサー:可愛い方がいいよね、という話になって丸っこく見えるようにカットさせてもらったのですが、そうしたら今やそれがシュナウザーのカットの主流になってしまいました(笑)。

― シュナウザーカットの定番を作ったのは『マルモのおきて』だったのですね!

撮影はスムーズすぎて撮影待ちしたのは福君が蚊に刺された時くらい!?

― 愛菜ちゃんと福君は『マルモのおきて』で初めて一緒に演技をしたのですか?

橋本プロデューサー:以前にも一緒の現場はあったようですが、あんなに長い時間一緒にいて演技をするのは初めてだったと思います。

― 本当に姉弟のように信頼しあっていて仲が良く見えました。たった6歳の子があんなにしっかり演技ができるなんて本当に驚きました。

橋本プロデューサー:福君は別作品でのオーディションの時から泣きの芝居が素晴らしくて。「どうしてそんなにすぐに泣けるの?」って聞いたら「お母さんが死んじゃったことを想像したらすぐに泣ける」って。想像してもそんなにすぐに泣ける!?と思いました(笑)。顔がほんわか可愛いからおっとりしているように見えますが、四人兄弟の一番上のお兄ちゃんで面倒見も良くて本当に頼もしかったです。愛菜ちゃんはもう当時から20歳の女性が中に入っているんじゃない!?と思うほど頭もよくしっかりしていました。

― 二人とも何のトラブルもなく元気に乗り切ったのでしょうか?

橋本プロデューサー:はい。福君が目の上を蚊に刺されて赤みが引くのを待つ、なんていうほほえましいことがあったくらいで(笑)。本当にお二人のお母様方が健康管理はもちろん、セリフを入れること、学校の勉強までしっかりとサポートをしていらして素晴らしかったです。福君は、現場に妹の夢ちゃんが遊びに来たこともありました。当時の私は子どもがいなかったので分かりませんでしたが、今、子どもを持ったことで改めてお母様たちのすごさが分かります。

― 20時まで撮影に付き添われて、家に帰ってからは台本を覚えさせ、学校のことも家事もして…って本当にお母様たちが大変ですよね。長丁場で子どもたちが楽しく元気に過ごせたのはスタッフの皆さんはもちろん、お母様たちの存在が本当に大きいですね。

橋本プロデューサー:阿部サダヲさんをはじめ、マルモ一家が住む家の大家さん役の世良公則さんや、その娘役の比嘉愛未さんなどキャストの方々、そしてスタッフもみんな二人が大好きで、一緒に遊んでくれたりして。チーフ助監督が八十島さんという女性の方だったのですが、愛菜ちゃん、福君は特に彼女に懐いて楽しそうに遊んだり喋ったりしていたことを覚えています。

― 居酒屋の切り盛りする世良さんの包丁さばきがお見事で驚きました!

橋本プロデューサー:そうなんです。普段からお料理をされているようでとてもお上手でした。

奇跡的なキャスティングで、阿部サダヲさん、芦田愛菜ちゃん、鈴木福君と順調に撮影が進んだ『マルモのおきて』。しかし実はクランクイン前日に東日本大震災が起こっていました。震災後、撮影をしている中で橋本プロデューサーが胸に抱えていた葛藤や家族のように団結していった『マルモのおきて』チームの楽しい舞台裏のエピソード等、後編に続きます。

後編はこちら

(左)第26回A T P賞テレビグランプリ2009 新人賞『メイちゃんの執事』/(中)東京ドラマアウォード2011プロデューサー賞『フリーター、家を買う。』『マルモのおきて』/(右)2011年 エランドールプロデューサー奨励賞『フリーター、家を買う。』

※1『フリーター、家を買う。』…原作は有川浩著「フリーター、家を買う。」(幻冬舎刊)。二宮和也主演で2010年10月~12月期のドラマとしてフジテレビ系で放映。
第28回ATP賞テレビグランプリ2011ドラマ部門「最優秀賞」、東京ドラマアウォード2011 連続ドラマ部門グランプリ、プロデューサー賞、エランドールプロデューサー奨励賞、など数々の賞を獲得。

※2『寺内貫太郎一家』…1974年にTBS系列の水曜劇場枠で放送されたホームドラマ。向田邦子脚本、久世光彦プロデュース。小林亜星主演。

橋本芙美

制作センター 第1制作部 専任副部長・プロデューサー

スタッフ『マルモのおきて』

脚本:櫻井 剛 阿相クミコ
音楽:澤野弘之 山田 豊
編成企画:瀧山麻土香 水野綾子
プロデュース:橋本芙美
演出:河野圭太 城宝秀則 八十島美也子

『マルモのおきて』あらすじ

阿部サダヲが演じる、文具メーカー「あけぼの文具」のお客さま相談室に所属する独身アラフォー男・高木護(まもる)が親友の死をきっかけに、親友が男手ひとつで育ててきた双子の子ども(芦田愛菜・鈴木福)と、双子がひろってきた人間の言葉を話す(!)犬のムックと一緒に暮らすことになるというファンタジックストーリー。突然始まってしまった、3人と1匹の「にせものの家族」。双子が護のことを間違えて「マルモ」と呼び、さまざまな出来事を乗り越えながら「家族のおきて」が毎話できてゆくという『マルモのおきて』。

主なキャスト

阿部サダヲ
芦田愛菜
鈴木 福
ムック(犬)
比嘉愛未
伊武雅刀
世良公則