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波乱の幕開けとなった
『古畑任三郎』シリーズ
河野圭太監督インタビュー(前編)

共テレコード

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初撮影は第3話!?
波乱の幕開けとなった
『古畑任三郎』シリーズ
河野圭太監督インタビュー(前編)

日本で誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第一回は日本の刑事ドラマで唯一無二の存在感を放ち、新しい田村正和像を確立したといっても過言ではない『古畑任三郎』シリーズの監督 河野圭太。当時の現場のリアルと知られざる貴重なエピソードをご紹介します。

演者もスタッフも全員年上!シリーズ初演出を任され「とんでもないことになった」

― 今もなおファンサイトが存在し、DVDコレクションが販売される等、根強い人気を誇る『古畑任三郎』シリーズですが開始当時こんなにも人気の作品になると思われましたか?

河野監督:三谷幸喜さんの脚本がとにかく素晴らしかった。「なんて面白いんだろう!」って僕は感激しちゃってね。当時の共同テレビプロデューサーの関口さんとフジテレビの石原さんと三谷さんで作った本を最初に読んだ時の感想は“とにかく面白い”でした。

― それまで三谷さん脚本の演出をされたことはあったのでしょうか?

河野監督:『やっぱり猫が好き』のスペシャルドラマ企画で『やっぱり猫が好き殺人事件』というのを三谷さんが書いたんです。その作品の助監督として会ったのが最初でした。脚本を受け取って帰りの電車の中で読んだら、とんでもない企画でね(笑)。終始電車の中で起こる密室劇だったんですよ。当時は電車を貸し切って撮影することも、スタジオに全てセットを組むこともできないと思いプロデューサーに「今回は難しいと思います」と言って、結局、実現しなかった。それが派生した回が古畑任三郎シーズン1、第8話の鹿賀丈史さんゲスト回の「殺人特急」です。さらに三谷さんにリベンジされたなって思ったのは僕が演出させてもらったフジテレビ開局55周年企画 三谷幸喜版『オリエント急行殺人事件』。「今の自分だったら、これ、できるだろう」って三谷さんに言われた気がしましたね(笑)。

― シーズン1の演出は河野監督の他に、星護さん、松田秀知さんの3人体制でしたね。当時、河野監督は30代前半という若手で、田村正和さんを演出されたことはなかったということでしたが、大抜擢だったのでしょうか?

河野監督:それまでは共同テレビのベテラン監督達が正和さんを担当していました。松田さんはその中のお一人でした。田村組って言って、カメラさんから照明さん、衣装さん、ヘアメイクさんと、皆さん田村正和さんの専属のスタッフの方がいらしてね。他のスタッフ達も皆、僕より年上で。そんな中での演出でしたからね…プロデューサーの関口さんが若いパワーを注入しようって思ってくださったのかな。既に星さんは『世にも奇妙な物語』が大ヒットしていたので、チーフディレクターとして最初に撮る予定だったんですけど、いろいろな兼ね合いで撮影スケジュールが合わなくなっちゃって。
僕が演出する第3話の古手川祐子さんゲスト回を先に撮ることになりました。それで「とんでもないことになった!」って、星さんと松田さんと3人、喫茶店で話し合いをしたことを覚えています。なにしろ三谷さんの脚本がふざけすぎててね(笑)。いきなり古畑が視聴者に語り掛けるシーンなんかあるもんだから、そこをどうやって撮影しようか、って話して。じゃあ、黒をイメージカラーとしようと決めて、見せ方もスポットを正和さんにあてて…って。それからいくつかルールを決めたのかなあ…それで、「もうあとは任せます」なんて言われたもんだから必死でしたよ(笑)。

映像史に残る名シーン“正和さんとストッキング”

― 第3話の古手川さんゲスト回を最初に撮っていたなんて驚きです…その後のシリーズの演出にも関わるとても重要な初回を任されたのですね。

河野監督:ちなみに最初にできていた脚本は第2話の堺正章さんがゲストの「動く死体」でした。最終的には『古畑任三郎』シリーズ初回は中森明菜さんの「死者からの伝言」になりました。

― それもまた古畑任三郎ファンとしては大変貴重なエピソードだと思います。責任重大な初回撮影を任されて撮影現場はいかがでしたか?

河野監督:やると決めたらね、やるしかないですから。それにとにかく脚本が面白い。でもね脚本にまた無茶が書いてあるんですよ。田村さんにストッキングかぶせるとかね(笑)。

― 当時、視聴者として見ていて大変ビックリしたのを覚えています(笑)。

河野監督:現場で正和さんがやらなかったらどうしよう…って思っていました(笑)。正和さんは基本的にワンシーン一回きりしか撮影をしません。シーンを切りたい時にはご相談して切らせていただいて、それ以外は全部一回で撮ります。そんな関係で、ストッキングのシーンでは僕は古手川さんを追っていて、正和さんがストッキングをかぶっているかどうか分からなかった。そしてドキドキしながら正和さんの方へ目線を移したら見事にかぶっていらしてホッとしましたね。正和さんは本当に緊張感のある方でしたから(笑)。でもね、とてもユーモアもあってストッキングのかぶり方なんかも「こうやった方が面白くないか」なんて考えてきてくれるんです。ストッキングって分厚くなっているところがあるでしょう。そこを口のところに持ってきたら泥棒ヒゲみたいになって面白いんじゃないか?とか仰って(笑)。でも当時、緊張しすぎていて実際そうされたかどうかは覚えてないですね…正和さんの撮影にかける想いや集中力はものすごくて現場の緊張感は本当にすさまじかったんです。

大変な緊張感とバタバタな現場の中、スタートした『古畑任三郎』シリーズ。田村正和さんという稀代の俳優を主演とし、毎回、大物ゲストが出演する事でも話題になった撮影現場で巻き起こった様々な波乱万丈なエピソード。後編も引き続き『古畑任三郎』の撮影秘話に迫ります。

後編はこちら

※『やっぱり猫が好き』1988年10月11日~1991年9月21日までフジテレビ系列で放送された脚本 三谷幸喜、出演 もたいまさこ、室井滋、小林聡美の伝説的コメディドラマ。

古畑任三郎 第1シーズン 台本

河野圭太

常務取締役・監督

スタッフ

脚本:三谷幸喜
演出:星護 河野圭太 松田秀知 鈴木雅之 佐藤祐市
プロデューサー:関口静夫 柳川由起子(ファイナル)

『古畑任三郎』あらすじ

警部補 古畑任三郎(田村正和)がゲスト演じる犯人を卓越した推理力と会話術で追い詰め解決に導く一話完結の倒叙形式刑事ドラマ(シーズン3の最終話のみ2話連続)。相棒として登場する今泉慎太郎(西村まさ彦)の突拍子もないキャラクターと毎回登場する犯人役の豪華ゲスト、そして卓越したストーリー展開で異彩を放つ刑事ドラマとして絶大な人気を誇る。1994年4月からシーズン1がスタートしその後、1996年1月にシーズン2、1999年4月にシーズン3、スペシャルドラマ、ファイナル等を経て2008年に完結。

主なキャスト

古畑任三郎…田村正和
今泉慎太郎…西村まさ彦
西園寺守…石井正則
向島(東国原)音吉…小林 隆