ドラマだらけな現場から
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北京2022冬季オリンピックの現場は入国初日から予想外の展開へ!
スリルと感動に満ちた25日間
現場には常にドラマが溢れてる!一分一秒を争う中継、真剣勝負のバラエティ収録、ドラマや映画撮影。映像現場のリアルを伝える“ドラマだらけな現場から”企画。
第一回の現場は2022年に開催された【北京2022冬季オリンピック】。映像の力で日本中を感動と興奮の渦に包みこんだカメラマンの一人、岩瀬裕紀に“その時”をインタビュー。あの時、あの場所では一体何が起こっていたのか!? 現場のリアルをお届けします。
まさか…!? 中国入国時PCR検査でコロナ陽性
フジテレビの撮影クルーとして共テレを代表して取材カメラマンに任命された菊島と岩瀬。岩瀬は出国時のPCR検査では陰性だったが、中国入国時の検査でまさかの陽性判定が下る。
「思い出したくない…申し訳なさ過ぎた2週間」
信じられませんでした…コロナ陽性で入国から2週間の病院隔離生活。初日こそ38度の発熱があり喉の痛みもありましたが、その後はいたって元気…病院内はWi-Fiも弱くスマホは思うように操作できず、LINEもままなりません。病院スタッフは英語が通じず、中国語が分からない僕は、ただただ不安でした。
2週間の隔離を経て、ようやくクルーへ合流した時に僕は元気いっぱいでしたがハードな取材を続けていたスタッフは疲弊しきっていました…申し訳ない気持ちでいっぱいの僕に菊島先輩がかけてくれた言葉は一言「ドンマイ」。
ただ撮るのではない。番組の“狙い”通りに撮る
オリンピック競技を撮影するとはいっても、ただ撮ればいいわけではない。その映像を流す番組の意図 = ディレクターの要望に沿った撮り方が求められる。ディレクターと打ち合わせをして番組の狙いを汲み取り、どのように撮れば視聴者に意図が伝わるか熟考し、現場に入れば瞬発的に判断しながら撮影し画にしていく。これがプロのカメラマンの役目であり技量の見せ所。
「意志のある映像を撮る!技術力と判断力が要」
映像を撮る時には必ず目的と意志があります。例えばオリンピックのオフィシャル映像の場合は国による優劣等を出さず公平に競技の行方を追い勝敗を記録します。しかし日本のテレビ番組のための撮影の場合、日本選手の表情やプレーが見たいので日本人選手のプレーにフォーカスして撮影をする事が求められます。
さらに言えばオフィシャル映像と同じ様に撮っても価値は生まれません。そのため逆をいく撮り方をしたりもします。例えば、得点を決めたのが他国の選手だったとしたらオフィシャルのカメラは「やった!」と喜ぶ選手を映した後、悔しい顔の日本人選手を映すでしょう。しかし僕たちは点を決められて悔しがる日本人選手をまず撮ってから、その後に喜ぶ他国の選手を撮る、といった具合です。視聴者の皆様が見たい映像を撮る。その指示を出すのはディレクターですが、カメラマンには望まれた映像を確実に撮る技術力と瞬時の判断力が求められます。
競技の撮影場所は前日の夜に決まります。決まったら会場MAPと照らし合わせて、どう撮影するかイメージトレーニングを行っていました。スピードスケート女子団体パシュート決勝の撮影を担当したのですが、日本チームは“金”を有力視されていた中で転倒してしまい銀メダルになります。思いがけず“銀”に甘んじてしまった選手たちのあの表情は今でも印象に残っています。
移動手段は4パターンのみ。制約のなか不便を感じる事も
宿泊ホテルから競技場への移動手段は4つに制限されていた。ホテルとメインメディアセンター(MMC)、そしてMMCと会場を移動できる“メディアバス”。取材団毎に毎日利用できる車両“レートカード車”。アプリから配車できる“ゲームズタクシー”。北京エリアと張家口エリアを結ぶ一日8本程度運行する“高速鉄道”。徒歩で行ける距離もバスに乗車しなければいけなかったり、機材と人でぎゅうぎゅう詰めだったり、車両は窓を開ける事が許されず感染症対策に不安がある等、不便や不安を感じるシーンも多かった。
「間に合うのか!?毎回スリル満点の競技場への移動」
移動は毎回何かしらのスリルがありました。ゲームズタクシーで違うところに連れて行かれ運転手は英語が通じないので慌てて通訳さんに電話をして場所を説明してもらったり、そもそも指定した時間に来なかったり…ディレクターとアナウンサーと三人で移動する事が多かったのですが、必死に翻訳アプリを駆使して運転手と会話しました。結局、遅刻することはなかったので結果オーライです(笑)。
悲観からの歓喜!カーリング女子準決勝進出
2022年2月17日。日本代表カーリング女子チームは予選最終戦を迎えていた。準決勝に進出できるのは4か国。この時、上位2か国はすでに決定していたため残り2枠を巡って日本、カナダ、イギリス、韓国が熾烈な戦いを繰り広げていた。日本の最終戦の相手は予選1位のスイス。結果4-8で敗れた。
選手たちは予選敗退も想定し、悔し涙のインタビューを受けていた。しかしその時、速報が入り日本の準決勝進出が告げられたのだった。
「アナウンサーの声のトーンで“これは!”と、とっさに判断」
インタビュー直前、他の国の結果次第で日本チームの準決勝進出の可能性があるとディレクター、アナウンサーと話をしていました。そこで選手のインタビュー中に速報が入ってくるかもしれないと事前準備を行っていました。インタビュー場所にはアナウンサーとカメラマンの2名しか入る事ができません。しかしそこになんとか頼んで入れてもらったのでしょう…ディレクターが入ってきてアナウンサーにメモを渡した。アナウンサーは僕の右側に立っていて僕はカメラを右に抱えているのでその様子を見ることはできませんでした。しかしメモを見たアナウンサーが「今…」と言った声を聞いて、「このトーンは!きた!」と直感し、藤沢五月選手にフォーカスしていたカメラを引いて選手たち全員を映すようにしました。その結果、準決勝進出を知らされ歓喜に湧く選手全員の姿を映像におさめる事ができました。チームで戦ったのだから選手全員の表情をやっぱり見たいですよね。あの瞬間、あの判断ができて本当に良かったです。撮れた時は「あぶなかった…」。撮れなかったら後悔しただろうという気持ちが大きかったのですが、撮影デスクから僕が撮った映像が代表取材※だったこともあり他局でも使われていたと聞いて徐々に喜びが湧いてきて誇らしく感じました。
「北京2022冬季オリンピック取材を終えて“今”思う事」
帰国時の機内アナウンスでパイロットの方からメディア関係者に感謝の言葉をいただきました。僕たちの仕事が誰かに感動を与えているのだと感じ、改めて自分の仕事にやりがいと誇りを持つことができました。
入社前からの夢だった2021年に開催された【東京2020夏季オリンピック】に続き【北京2022冬季オリンピック】の取材カメラマンという貴重な体験をさせていただきました。次は【パリ2024夏季オリンピック】です。僕が現地に行けるかどうか分かりませんが、これからもあらゆる現場を経験し、どんなシーンにおいても「あいつに任せたい」と言ってもらえる、厚い信頼を寄せられるカメラマンへと成長したいと思っています。
※代表取材 … 人数制限のため、それぞれの国のテレビ各局から選出された代表クルーのみが取材を行う
岩瀬裕紀
技術センター 制作技術部コンテンツ技術グループ SW・CAM班
カメラマン
2020年に開催されるはずだった東京2020夏季オリンピックの取材カメラマンを目指し、学生時代から結婚式場のカメラマンとして本格的なカメラワークを学ぶ。
2017年入社。共テレカメラマンの登竜門であり独り立ちするために必須の独自テスト「カメラマン登用試験」、通称“カメテス”に2年目という異例の速さで合格。現在は“フジテレビ ニュース総局 LIVE STUDIO”撮影中継取材部のカメラマンとして日々現場で奮闘中。強い責任感と向上心、目的を達する強い志を持つ、次世代の共テレを担うエースカメラマン。
(2023年3月取材)