ドラマだらけな現場から
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興奮と感動のパリ五輪!
現場には常にドラマが溢れている!一分一秒を争う中継、真剣勝負のバラエティ収録、ドラマや映画撮影。そして、ドキュメンタリー。映像現場のリアルを伝える“ドラマだらけな現場から”。
第5回は【パリ2024夏季オリンピック取材】に参加したカメラマン山根昭一とVE渡部史也。普段あまりスポーツ取材に携わっていない二人は、オリンピック参加が決まってから半年をかけてスポーツ撮影の勉強に励んだという。2024年夏を湧かせたオリンピックの現場は感動と興奮に満ち溢れていた。
移動のハプニングは日常茶飯事!?ヒヤリハットな状況も無事回避!
翌日の撮影場所は前日夜にならないとわからない!移動手段はバスに電車…街中がオリンピックで湧いている中でスムーズな移動は難しい…。
あわや遅刻!?パリ市内通行止めでヒヤヒヤの大移動
山根) パリから片道2時間のリヨンでサッカーの試合があり、その撮影を担当。次の日の朝パリにもどり、日本人選手の勝ち上がり次第でフェンシングの撮影にいくことに急遽変更になりました。リヨンには機材も私物も絞った出張スタイルで行っていたので、パリ市内の駅まで戻ったら一度ホテルに帰って体制を組みなおしてからバスで会場に行こうと渡部と話していました。ところがその日はパリ市内で自転車競技をしていた!それで街中がほぼ通行止め。通常であれば駅からホテルまでタクシーで30分程度だったのに、う回続きでなかなか着かない。日本人選手が勝てば必ず撮影しなければいけませんから、絶対に時間までに会場にいなければいけない…でもホテルに着かない!スマホで試合結果を見ながら渡部と「これ明らかに勝つよね」と、そわそわドキドキ…。ついにディレクターから「山根さんたち会場へ行ってください」と明確な指示がきた。その時にはホテルに帰ったら到底間に合わないという状況になっていました。慌てて地下鉄のルートと時間を計算すると「もうこのタイミングで乗り換えなければ間に合わない!」とわかり、急遽タクシーを降りて地下鉄に切り替えました。ところが荷物が多くて、パリ市内の地下鉄は身長くらいのゲートをくぐらないといけないのですが一回では通れないので、一つずつ荷物を運んでまた通って…なんてことを繰り返してまたタイムロス!
結局、試合が始まる10分ほど前に到着できたのですが、機材が梱包されているのですぐにセッティングができません。大急ぎで荷解きをし、バタバタと会場にいるディレクターと打合せをして、競技を撮影する位置にスタンバイできたと思ったら試合スタート!あの時は本当に焦りました。
渡部) フェンシングの試合は「グラン・パレ」というパリの中心にある1900年のパリ万国博覧会のために建設された建物で行われました。中継をご覧になって壮大な歴史ある空間に感動された人も多いと思います。フェンシングの試合は既に何度か撮影していて会場のことが分かっていたので10分でなんとか準備できましたが、あの状況で初めて行く会場だったら間に合わなかったと思います。
バスは予定通り来ないこともあるし、早く来る日もあるし(笑)。日によって競技の関係で乗る場所や降りる場所も変更になる。余裕をもって出ても時間通りに会場に到着できない日もあって常に緊張感がありました。
女子フェンシング。個人戦で悔しい思いをしてきた選手たちが団体戦でメダルを手に
男子は“フルーレ団体”で金メダル、“エペ団体”は銀メダルを獲得。個人でも加納虹輝選手が“エペ”で金メダルを獲得するなど華々しい活躍をする一方、女子は個人で苦戦。メダルを手にすることはなかった。悔しい思いを続ける選手たちが目指したのは団体での金メダル獲得だった。
リザーブ選手が活躍!見事“サーブル団体”で銅メダル!
山根) フェンシングの試合は個人から団体まで撮影を担当させてもらいました。女子は個人戦でふるわず、選手たちは悔しい思いを続けていました。それが“女子サーブル団体”で銅メダルを獲得し選手たちの努力が実った瞬間は本当に嬉しかったです。特にリザーブ選手として陰で支え続けてきたチーム最年長の福島史帆実選手の活躍があっての銅メダルだったと思うので感動もひとしおでした。ずっと現場で選手たちを撮影し続け、感情を共有してきたからこそ味わえた感動だったと思います。その感動が視聴者の方に伝わるようにと想いながら撮影しました。
渡部) インタビューを続けていて感じたのは、選手たちは皆「自分が良ければいい」という考えではないということ。「日本のフェンシング界を盛り上げたい」「もっとフェンシングを見て欲しい」という一心で努力を重ねてオリンピックに挑んでいました。個人で成績がふるわず「申し訳ない」という悔しい思いを続けていた中で、団体でメダルを獲得できた時の選手たちの喜びの笑顔は本当に最高でした。
惜しくも無効となった幻のゴール
日本男子サッカーVSスペインの試合が行われたのは、フランス最大級のスポーツ施設で国際サッカー連盟(FIFA)やヨーロッパサッカー連盟(UEFA)が認める最高水準の設備を備えたスタジアム「パルク・オリンピック・リヨン」。結果的に日本は0-3で敗退することになるが、そこには無効と判定された細谷真大選手のゴールがあった。
サッカーは大ファン!ゴール横で撮影できる幸せ
山根) サッカーファンの私にとって「パルク・オリンピック・リヨン」は夢にまで見た憧れの舞台!そこで日本戦の撮影ができるなんて夢のようで、内心ものすごく興奮していました。あの試合では「誤審では?」とささやかれた細谷選手のゴールがありましたが、あの時、私はゴール横でその瞬間を撮影していました。「ゴールする瞬間を撮り逃さないように」という緊張感と「ゴールした!」という興奮がすごかったです。無効となった後も一瞬を撮り逃さないようにと一生懸命だったので、あの審判が誤審だったかどうかということを気にする余裕はありませんでした。
渡部) スペインのサポーターよりも日本人サポーターの方が多くて、ゴールが無効になった時はざわついていました。僕も生で見ていて「あれは誤審ではないか?」と正直思いました。あのゴールが決まっていればまた流れが違っていたのではないかと思います。
ちょっとこぼれ話 その1
山根) ホテルはコーディネーターさんが予約してくれるのですが、ある時、泊る予定のホテルがチェックイン時にダブルブッキングになっていることがわかって、結果的に隣にあるホテルに泊まることになった。そのホテルはなんと3つ星!本来なら2つ星ホテルに泊まる予定だったので、思いがけずラッキーでした。
ミックスゾーンを制する者はインタビューを制す!
試合直後の選手インタビューは、選手の素が垣間見える貴重な機会。なるべくフレッシュな状態の選手へインタビューをすることで、現場の臨場感と選手の状態が視聴者へとダイレクトに伝わる。そのため場所取りが肝心要となる。
ミックスゾーンのスタート地点を死守せよ!
渡部) ミックスゾーンの場所取りはVEである僕の役目です。僕にとっては、この役目がオリンピック期間中もっとも重要だったといっても過言ではないかもしれません。選手は試合後、ミックスゾーンと呼ばれるインタビューエリアを通って控室へと戻ります。そこには各国のインタビュアーが待機しています。
レッドカーペットをイメージしていただくと分かりやすいと思うのですが、選手たちはミックスゾーンを通り、その横に取材者たちが待ち構えています。試合直後の興奮冷めやらぬ選手にすぐにインタビューできるのはレッドカーペットのスタート地点にいるインタビュアーです。その後は何人もの記者からインタビューをされて選手もだんだんと落ち着きを取り戻し、最初のフレッシュさや興奮はおさまってしまいます。なので、ミックスゾーンのスタート地点の場所を確保することは非常に重要です。海外の取材班はカメラを置きっぱなしにして場所取りをしたりもしていたのですが、盗難の可能性もあり、安全ではないので僕がミックスゾーンで長らく待機するということがよくありました。おかげで試合が見られないことも多かった(笑)。ですが選手たちの試合直後の興奮を一番間近で肌で感じられて本当に貴重な機会だったと思います。
重い機材を持ちながら8時間の過酷な取材
女子ゴルフの試合はパリ市内からタクシーで約1時間離れた郊外のコースで行われた。約8時間にもおよぶ長丁場の取材。日陰のない炎天下の中、重い機材を持ちながらの撮影は体力勝負だった。
「売り切れるよ!買わなくていいの!?」
山根) 本当に暑くて日陰もなくて緯度が高いから紫外線も強くて。私はカメラマンなのでサングラスをかけるわけにはいかなかったのですが、渡部には「かけた方がいいよ」って何度も言いました。ですが頑なに、かけませんでしたね(笑)。
渡部) 先輩がしていないのに年下の僕がサングラスなんてできませんよ(笑)。
ゴルフ女子では、笹生優花選手に比べてあまり注目されていなかった山下美夢有選手がどんどんスコアを伸ばしていった姿に感動しました。惜しくも4位タイという結果にはなってしまいましたが…。試合後のインタビューで「男子ゴルフに比べて女子ゴルフは観客も少なくて注目度が低いので、もっと見てもらえるように頑張りたい」と仰っていて、フェンシングの選手同様、個人ではなく日本の女子ゴルフ界を背負って戦っているんだな、というところにグッときました。
そういえば、このゴルフの取材時に重い機材を入れて運んでいたリュックはパリで購入したものなんです。オリンピックの公式ショップに山根さんと行った時、そこにリュックがあって。山根さんが「公式リュック売っているから買った方がいいよ」って(笑)。値段を見たら80ユーロ…まあまあ高い!僕が悩んでいたら「買わないの?売り切れるよ!」と、たたみかける(笑)。でもかっこいいし記念になるし「まあいいか」と買いました。それがゴルフの取材で一日重い機材を担いで動き回ったおかげでボロボロに(笑)。ちなみに山根さんはリュックを買っていません!日本に帰って来てリュックで通勤していたら周りの人から「ダサい!」って言われました(笑)。でもいいんです、僕は気に入っていますから!
激しい争いが繰り広げられる男子ケイリン
男子ケイリンの中野慎詞選手の決勝。最終コーナーで中野選手を含む3選手が競り合っていたがゴール直前に接触により3人とも転倒。落車して病院に運ばれる結果となった。
自転車競技を機材不足の中で撮影するのは至難の業
山根) 室内トラックの自転車競技の撮影をしたことがなかったので事前に勉強はしていきましたが、撮るのは本当に大変でした。手前と奥ではスピードがぜんぜん違うので、手前のスピードに合わせてカメラを振ると三脚が浮いてしまう。普段の撮影であれば三脚を押さえる重りを準備できるのですが、パリ現地にはそこまでの装備を持って行くことはできないので機材不足の中でなんとかやり切りました。あとはすべてのルールがちゃんと頭に入っていないと、例えば選手が失格になった時に、なぜそうなったのかが分からず選手を追えなくなってしまうので、事前の勉強は欠かせませんでした。
ちょっとこぼれ話
渡部) 今回の取材では山根さんのタフさを思い知らされました。僕より年上なのに滞在中にどんどん元気になっていくんです!移動中もずっと喋っているし…。僕は逆に疲労が蓄積していって、日が経つにつれて体調が悪くなってしまって。山根さんに「ちょっと体調悪くって」と言ったら「俺、どんどん元気になる!水が合うのかな」って(笑)。欲しいものがあって買い物に出かけた時も山根さんに「なんで一人で出かけるんだよー。誘ってよー」って。僕は疲れているだろうからと遠慮したのですが(笑)。山根さんを見習ってもっと体力つけないとなって思います。
ロサンゼルスオリンピックにカメラマンとして参加したい!
まだ入社3年目の僕がとてもラッキーなことに今回はVEとして参加させていただきました。これは本当に奇跡のようなことで、とてもありがたかったです!ですが2028年にロサンゼルスで開催されるオリンピックには、カメラマンとして参加したいと思っています。そのために、今はひたすら現場で経験を積み重ね、努力して実力を磨いていきたいと思います。ロサンゼルスに行けたらその時は今回パリで購入したリュックを持っていきます。
巡り合わせの中で叶った奇跡。この経験を次に繋げていきたい。
どんなに行きたいと思っていても行けない場所が“オリンピック”だと思います。私は幸運にも巡り合わせの中で撮影が叶ったので、半年かけて自分なりに勉強をして臨みました。責任の重さを痛感し緊張感もすごかったですが、結果的にすごく楽しかった。それはやっぱり撮影が好きだからだと思います。「次のオリンピックに向けてこうしたい」は特にないのですが、今回の経験によって渡部のような後輩カメラマンたちに助言できるようになったと感じています。そうやって次に繋げていければいいなと思います。
山根昭一
技術センター 制作技術部 コンテンツ技術G CAM
2023年中途入社。フジテレビ報道局に常駐し、国内外のニュース現場を経験するカメラマン。現在は報道情報番組中継やバラエティー番組などを担当。
(2024年9月取材)
渡部史也
技術センター 制作技術部 コンテンツ技術G VE
2022年入社。ロケセクションのVEとして『逃走中』や情報番組で経験を積む。
2024年10月より、フジテレビの『ニュース総局 LIVE STUDIO』にて撮影中継取材部のVE配属となる。
現在は、カメラマンを目指して日々尽力中。
(2024年9月取材)