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三谷幸喜さんとの信頼関係
『古畑任三郎』シリーズ
河野圭太監督インタビュー(後編)

共テレコード

Vol.03

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田村正和さんとの距離の行方。
三谷幸喜さんとの信頼関係
『古畑任三郎』シリーズ
河野圭太監督インタビュー(後編)

日本で誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第一回は日本の刑事ドラマで唯一無二の存在感を放ち、新しい田村正和像を確立したといっても過言ではない『古畑任三郎』シリーズの監督 河野圭太。前編では撮影スタート時のドタバタ劇や田村正和さんの貴重なエピソードをご紹介しました。後編はさらに田村正和さんとの撮影秘話やここだけの打ち明け話。さらに共テレの今後のドラマ創りについてお話しします。
前編はこちら

圧倒的な周囲の反応が後押ししたシーズン2への道

― 初回のシリーズを終えられて手ごたえはいかがでしたか?

河野監督:視聴率は普通だったんです。でも周囲の評判が良かった。それは自分たちのいる業界内ではもちろん、今のようにSNSがなかった当時、様々な方面から大変評価してもらいました。「続編が見たい!」という声も多くいただいた。それでスペシャルドラマを経てシーズン2がスタートしました。

― シーズン2ではメインディレクターをされていますが田村さんとの現場の緊張感は相変わらずでしたか?

河野監督:相変わらず緊張感たっぷりでした(笑)。正和さんは楽屋に戻らずに常にセットの隅の暗い中でジーっと座って台本を覚えていらっしゃるんです。それでプロデューサーの関口さんがシーズン2は高視聴率発進したということで正和さん専用の椅子を買ってプレゼントした。通称“正和チェア”と呼ばれた、王様が座るような立派な椅子です。その椅子の右側のひじ掛けに台本が読めるように照明を付けたのですが、真っ暗なセットの中にそこだけにポッと灯がともっている。それがまたなんともいえず緊張感があってね(笑)。そこで静かに台本を覚えている正和さんに「こうして欲しい」と要望を伝えに行くのですが、まあドキドキしました。正和さんとの緊張感は最後まであまり変わらなかったですね。

シーズン2最終回は田村正和さんへのご褒美!?

― 『古畑任三郎』はゲストが大物ばかりということでも評判でしたが、監督をする上で心がけていたことはありますか?

河野監督:演者さんやスタッフ全員に気持ちよく仕事をしてもらいたいと思っていました。とにかく緊張の連続で「今日一日が何ごとなく終わりますように」と願う日々でした。現場には緊張感が張り詰めていましたからゲストの皆さんも「絶対に自分がNGを出したくない」っていう気迫がすごかった。そして「正和さんと演技で勝負してやろう」という気概も、ものすごく感じました。

― 三谷さんの脚本は毎回本当に面白くて、あんなストーリーが思いつくなんてすごいなと、イチ視聴者として毎回感動していました。

河野監督:無茶も色々あるんですよ(笑)。本の中では成立しているように見えても現場では撮れなかったりする。そこを指摘するのが僕の仕事でした。細かく指摘するから、そのうち三谷さんが「○○って言うセリフを入れようと思うんだけど、どうかな?」って電話で直接相談してくるようになって。例えば、古畑がしょっちゅう名前を間違える向島巡査がいるのですが、あの役は結婚・離婚を繰り返していて、その都度名前が変わる。加えて古畑シリーズは事件が発生する順番が放送順(撮影順)ではないという“遊び”をあえて行っていたので間違えやすかったんです。その度に過去の古畑任三郎の脚本を調べて「使えませんね」なんて言って(笑)。自分で監督したのは覚えてますけど、そうじゃないのはさすがに分からないから妻にも協力してもらって脚本を調べたりしましたよ。

― そういうこともあってでしょうか、三谷さんは河野監督のことを一番信頼できる監督だと仰って、その後ほぼすべての民放の三谷さん脚本のドラマの監督をされていますね。

河野監督:三谷さんの脚本は面白いんですよ。本当に僕は三谷さんの本が好きで。そこに僕の余地を入れてもこれ以上面白くなることはないなって思うから脚本通りに演出します。それが三谷さんにとって良かったんじゃないでしょうか。脚本は作家が苦しんで生み出している作品です。それを変えずにしっかりと世界観を守って撮りきるということを大切にしています。まあ、たまに成立してなくて変えなくてはいけないな、と思う時は指摘しますが、僕は本当に恵まれていてね。力のある作家さんとばかりご一緒させてもらいました。

― シーズン3とスペシャル、ファイナルを経て古畑任三郎は終了しました。ファンとしてはもっと観たかったです!

河野監督:正和さんは続編を聞かれる度に「もう二度とやらない」と仰っていたんですけどね(笑)。セリフも多いし、絶対にとちってはいけない。立て板に水のように喋るあの古畑節は相当なプレッシャーだったのではないかと思います。また三谷さんの脚本が遅いから…(笑)。正和さんは「一ヵ月前には欲しい」と仰っているのにそれが難しいから「せめて2週間前には」というルールになっていましたが、いつもギリギリでしたね。

― シーズン2の最終回はN.Y.が舞台でしたが、ほぼずっとバスの中で観ている側としてはN.Y.ロケではないのではないかと思っていました(笑)。

河野監督:オールN.Y.ロケでした(笑)。僕は風間杜夫さんがゲストの回をギリギリまで撮ってからN.Y.に飛んで現地で編集指示を出したりしていました。正和さんがN.Y.が大好きだったので関口プロデューサーが高視聴率を取ったご褒美でN.Y.の設定にした。という話もあります(笑)。本当にドタバタでしたがとてもいい思い出です。鈴木保奈美さんがゲストだったのですがマネージャーもつけずに一人でいらっしゃったんです。だからなのか普段は犯人役ということもあってゲストとあまりお喋りをしない正和さんが保奈美さんとは仲良く喋っていらして。そんなお二人の様子を見るのがとても嬉しかったです。

“面白がるコト”の先にあるクリエイティブは、きっと面白い!

― 貴重なお話を本当にありがとうございました。最後に、これからの共テレのドラマ創りについてお話を聞かせてください。

河野監督:今はテレビの地上波だけではなく、いろいろな場所に向けてドラマ制作が行われていますよね。でも結局創るのは“人”です。作家やスタッフと信頼関係がなければ良いものは創れないと思っています。その為にはまず、自分が相手に信頼してもらわないといけない。信頼されるにはその時々の自分が置かれた立場の仕事を面白がる事が大切だと思います。面白がってる人ってなんかキラキラして輝いて見えるじゃないですか。そうすると「お、なんかお願いしてみようかな」ってなる。そうやって面白いコトを自ら見つけて、表現して、伝えて、絆を繋いでいく。共テレはそんなクリエイター集団であってほしいと思います。信頼関係が紡がれた繋がりの中から生まれる作品は、きっと面白いはずですから。

前編はこちら

第13回 ATP賞 1996 ドラマ部門 優秀賞 受賞

河野圭太

常務取締役・監督

スタッフ

脚本:三谷幸喜
演出:星護 河野圭太 松田秀知 鈴木雅之 佐藤祐市
プロデューサー:関口静夫 柳川由起子(ファイナル)

『古畑任三郎』あらすじ

警部補 古畑任三郎(田村正和)がゲスト演じる犯人を卓越した推理力と会話術で追い詰め解決に導く一話完結の倒叙形式刑事ドラマ(シーズン3の最終話のみ2話連続)。相棒として登場する今泉慎太郎(西村まさ彦)の突拍子もないキャラクターと毎回登場する犯人役の豪華ゲスト、そして卓越したストーリー展開で異彩を放つ刑事ドラマとして絶大な人気を誇る。1994年4月からシーズン1がスタートしその後、1996年1月にシーズン2、1999年4月にシーズン3、スペシャルドラマ、ファイナル等を経て2008年に完結。

主なキャスト

古畑任三郎…田村正和
今泉慎太郎…西村まさ彦
西園寺守…石井正則
向島(東国原)音吉…小林 隆