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『孤独のグルメ』シリーズ~
吉見健士プロデューサーインタビュー (後編)

共テレコード

Vol.04

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誰も見たことがないドラマの誕生!
『孤独のグルメ』シリーズ~
吉見健士プロデューサーインタビュー (後編)

日本人なら誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第二回に登場いただくのはグルメドラマ界に革命を起こし、新たなジャンルを確立した『孤独のグルメ』プロデューサー吉見健士
主役の井之頭五郎は松重豊さんしか考えられなかった、初回のお店決定秘話等、貴重なお話を伺ったインタビュー後編です。
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まるで神業!?井之頭五郎の食を語るシーンのヒミツ

― 『孤独のグルメ』では井之頭五郎の独特な語り口の“心の声”が印象的ですが、セリフは全て脚本家が考えているのでしょうか?

吉見プロデューサー:脚本は長年、主に田口佳宏さんにお願いしているのですが、最終的なアンカーマンは久住さんにお願いしています。そこであの独特なセリフ回しが出てくるんです。あれはやっぱり五郎の生みの親の久住さんにしか書けないんですよね。

- 五郎さんが食事をしている時に頭の中で感想を語るシーンは、どうしてあんなにピッタリ合うのかいつも本当に不思議です。

吉見プロデューサー:すごいですよね(笑)。あれは松重豊さんの身体に尺が染みついているのか5秒なら5秒でピッタリモノローグ(※1)通りになるんです。長らくタイムキーパーをお願いしていた方が最近、高齢になってお辞めになられたのですが、松重さんがあまりにも正確だからタイムキーパーの後任はいません(笑)。

― 五郎さんはいつもたくさん食べますが、あのメニューはすべて脚本に書かれているのでしょうか?

吉見プロデューサー:書いてはありますが、松重さんのサービス精神というのか、視聴者を喜ばせたいと思うのか台本にないメニューを突然追加で頼んだりするんです(笑)。それも全てキレイに完食されます。それが松重さんの美学なんでしょうね。例えばこんなこともありました。シーズン2の第6話に登場した小岩の四川家庭料理「珍々」さんの料理がとても辛かったので「辛さを薄めましょうか」と伺ったんですが「大丈夫です」って仰ってすべて食べられました。脚本にないものを松重さんが注文するとカメラマンは考えていたカット割りと違ってしまうから初めは慌てていましたが、今はもう慣れっこです(笑)。そんな状況だから常に脚本家には現場にいてもらって、松重さんが追加したものをその場でモノローグのセリフに加えてもらうんです。撮り終わったら、すぐに静かな場所を探してナレーション録りをするので、その場でセリフを書いてもらわなくてはいけません。

― MA室(※2)で録るのではないのですか!?

吉見プロデューサー:もちろん共テレに帰ってくれば立派なMA室がありますが、そんな予算も時間もなかったので。今でもそのまま撮ったらすぐどこか静かな場所を探して現場でナレーション録りをするようになっています(笑)。

周りがざわついた!2ちゃんねるに後押しされたシーズン2

― 最初のシーズンは本当にミニマムなスタッフ布陣で大変だったと聞きました。

吉見プロデューサー:技術さんもアシスタントはいなかったですしね。私も一緒に機材を運びました(笑)。

― 大変な思いをしながら撮影したシーズン1ですが、こんなに長く続くと思われましたか?

吉見プロデューサー:視聴率はそんなでもなかったんですが、DVDがすごく売れたんです。あとは2ちゃんねるにスレッドが立った。周りがざわついたんですよね。「おじさんが一人でメシを食ってる見たこともないドラマだぞ」って(笑)。2ちゃんねるに背中を押されてシーズン2が決まりました。

― そんなところは狙い通りだったのでしょうか?

吉見プロデューサー:最初に作る時に、テレビなんだから情報としてリアルなお店を舞台にしようと決めました。その時の久住さんとの約束は“漫画で出た店は使わない”。テレビにはテレビの世界があるのだから、テレビに相応しい店を見つけてくれと言われました。リアルなお店を舞台にすることで完全なフィクションではなく、ドキュメンタリーの要素が生まれ、そこに松重豊という俳優がいることでドラマになる。
ですが、なるべくドラマの要素をそぎ落としながら創ったのが『孤独のグルメ』なんです。ドキュメンタリー感溢れるリアルを感じる井之頭五郎が誰にも気を遣わずに一人でメシを食べる。五郎の一人メシの美学を僕はハードボイルドだと思うのですが、その男っぽい世界観が多くの視聴者から共感を得たのではないでしょうか。

「俺はこれでいい」に込められた五郎の美学

― 情報として視聴者へ届けるとなると美味しいお店を探さなければいけない、というプレッシャーがありますよね。ただでさえお店探しは大変なのにハードルが上がりませんでしたか?

吉見プロデューサー:それがね、久住さんが五郎に「俺はこれでいい」って言わせているんです。漫画で五郎は店選びに失敗したりもしていますがその時に五郎は、「俺はこれでいい」と一人メシを満喫する。これが五郎の一人メシの美学なんです。「こんなもんでいい、こんなものでもいい」っていうのかな…それが僕ら店探しをする人間にとっては一つ救いの部分でもありますね(笑)。ただもちろんテレビでお店を紹介するのですから美味しいお店を、とは思っています。ですがグルメサイトで探すようなことは今まで一度もしていません。全て自分たちの足で探しています。エリアを決めてシーズンの中で同じジャンルが被らないように考えて、探し、食べ歩きます。脚本家は本を書くためにかなりのメニューを食べてその中から五郎に食べさせるメニューを選びます。僕も相当食べました(笑)。最近はスタッフの所帯も大きくなってプロデューサーもディレクターも増えましたから皆でお店を決めています。

― ドラマファンとしては最後に久住さんが出てきてお酒に合うメニューを頼むのが好きです(笑)。あれは久住さんが好きなものを自由に頼んでいるのでしょうか?

吉見プロデューサー:そうです。五郎が頼まなかったものを中心に久住さんが好きなものを頼んでいます。コロナの前はお酒と一緒に楽しんでいましたね。麦ジュースなんて言ってビールを飲みながら(笑)。

― まだまだお伺いしたいことは尽きませんが、最後にこれからの共テレのドラマ創りについてお聞かせいただけますか。

吉見プロデューサー:僕自身は常にやりたい企画が湧いてきて、作家や監督と話していると止まらないんですよね(笑)。オリジナルを企画してプレゼンして、撮影して…常に現場にいたいという気持ちを持っています。ですが、全部を一人で抱え込まないように若手のプロデューサー等を起用して僕と同じ立場で仕事をしてもらうように心がけています。人付き合いの中から良い作品が生まれると信じているので、仲間や人を大切に皆で一緒に現場を体験しながら、さらに新しい魅力あるドラマを創っていきたいですね。

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第33回 ATP賞テレビグランプリ 2017 特別賞 受賞

※1モノローグ…登場人物が誰に話すわけでもなく自らの心境を吐露する演劇の手法です。
※2 MA室…「Multi Audio」。完成された映像に音声編集を行うスタジオ。音楽や効果音、ナレーションの収録等を行います。

吉見健士

取締役・プロデューサー

スタッフ「2022大晦日スペシャル」

原作:作 / 久住昌之・画 / 谷口ジロー(週刊 SPA!)
音楽:久住昌之 ザ・スクリーントーンズ
脚本:田口佳宏 久住昌之
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:吉見健士 北尾賢人
小松幸敏(テレビ東京)
演出:井川尊史 北畑龍一

『孤独のグルメ』あらすじ

原作者 久住昌之、作画 谷口ジローの漫画作品。個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎(松重豊)が日本全国、時には海外に渡り、気の向くまま食べたいものを食べたいように食べる。誰に気兼ねすることなく一人で食事をするスタイルは日本のみならず一人メシ文化のない韓国でもブームを巻き起こし、台湾ではWebドラマとしてシリーズ化。2012年にスタート、2022年にシーズン10を迎えた。

主なキャスト

井之頭五郎…松重豊
原作者 久住昌之…本人
【ナレーター】植草朋樹
【オープニングナレーション】柏木厚志 野田圭一