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誰もがワクワクする
「見たい!」を創り上げる

創造職人Files

Vol.12

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アーティストの想いに寄り添い、
誰もがワクワクする
「見たい!」を創り上げる

Vol.13  演出ディレクター 松永健太郎篇

クリエイターを通して職種をフィーチャーする“創造職人Files”。第十三回は第2制作部の演出ディレクター、松永健太郎。地上波音楽番組やアーティストのMV、ライブDVD等、音楽コンテンツに特化し、演出ディレクターを務めてきた彼が語る、仕事の魅力や印象に残るパフォーマンスの舞台裏とは。

駆け抜けた時間が、今の自分を支えている

漠然としたクリエイティブ業界への憧れはあったものの、それを本気で意識し始めたのは大学で就職活動を始めた頃でした。法学部に進学したのですが、卒業後の進路を考えたとき、ふと「スーツを着たくない」と思ってしまったんです。子どもっぽい理由ですが。周りの友人たちが次々と“お堅め”の一般企業へと就職を決めていく中、自分は映像制作会社とテレビ局に的を絞って就活。そして、ドラマ制作に強い会社から内定をもらい、この業界に飛び込みました。

ところが入社してわずか2週間後、「ここで3年間、丁稚奉公してこい!」と言い渡されたのが、『SMAP×SMAP』(スマスマ)(※1)の現場でした。『スマスマ』は、料理、コント、ゲーム、歌……全てのジャンルを網羅した人気番組。スタッフ同士も仲が良くて、今、振り返ると楽しかったです。休日も不規則、働く時間帯もめちゃくちゃという、昨今では考えられない環境ですが、“悩む暇もないほど忙しい”という状況が、むしろ自分を突き動かしていたようにも思う。もちろん大変なことも多かったですが、それ以上にワクワクする瞬間の連続で、夢中で駆け抜けた17年間でした。あの時代にとにかくいろいろなことに挑戦し続けた経験が、今の自分を支えてくれているという実感があります。

「見たい!」をカタチにする、演出ディレクターの仕事

音楽番組の演出ディレクターは、まさに現場の司令塔。番組全体の流れを把握しながら、照明、美術、撮影等、あらゆるスタッフと共に、最高のステージを創り上げる役割です。例えるなら、レストランで言うところのシェフ(料理長)。お店のオーナーにあたるプロデューサーの意向を汲みつつ、現場の細かな指揮を執り、最高の一皿=パフォーマンスを届ける存在です。

演出プランをスタッフ間やアーティストと共有するときは、“景色”で伝えることが多いです。「ジャングルの中で一人で歌っている」とか「卒業式の朝、左側から光が差し込んでいる」とか。意外と、具体的な説明よりイメージが伝わるんですよね。長く一緒に仕事をしている音楽監督の武部(聡志)さんには、「松永はそれでいいよ!」と言ってもらえます。

今レギュラーで担当している『MUSIC FAIR』(※2)や夏と冬に放送される『FNS歌謡祭』(※3)では、アーティスト同士のコラボレーションも大きな見どころ。「この組み合わせ、絶対に面白い!」と思うものを企画し、照明やカメラワーク、美術セットに至るまで細かく演出を組み立てます。コラボのアイディアは、日々思いつくたびに携帯電話にメモ。企画の種は、いつも“自分が見たい、ワクワクするもの”です。例えば、『FNS歌謡祭』でのKREVAさんとNumber_iの皆さん、ケンティー(中島健人さん)と東方神起のお二人のコラボ等は、まさに自分の「見たい」が実現したもの。アーティストが自分の楽曲を披露するのはもちろん、それに“+α”を加えて、新しいパフォーマンスを届ける。それこそが、今の音楽番組に求められている姿なんじゃないか――そう思いながら、これからも“ワクワクする瞬間”を生み出していきたいと思っています。

アーティストとの共闘が生み出す、特別な瞬間

音楽番組では、アーティストとの信頼関係を築くことも大事なポイント。いつも心がけているのは、「今回、この曲(このコラボ)をこんなイメージで撮りたい!」と、ご本人に直接、自分の言葉で想いを伝えることです。

印象的なのは、コロナ禍に放送された『FNS歌謡祭』で手がけた、森山直太朗さんと平手友梨奈さんのコラボレーション。『生きてることが辛いなら』を直太朗さんが歌い、平手さんが踊りで表現するという企画でした。丁寧にアーティストサイドとやりとりを重ねて迎えた本番、ワンコーラスの間、カメラは一切直太朗さんを映さず、平手さんと彼女と共に踊る女の子の物語だけを追う構成に。歌うアーティストを大きく映すのがセオリーですが、これはそういうステージじゃない。直太朗さんは「こんなに映らないの!?」と思われたかもしれませんが、「視聴者を没入させるためにも、前半はこう撮りたい」と熱量をもって意図を伝え、最後までそのアイディアを貫きました。終わった後には、「すごい瞬間を目撃した」という感覚が現場に満ち、自分も泣きそうになりました。直太朗さんも「あれがよかった」と言ってくださって。当時の世の中全体の閉塞感とも重なり、忘れられないステージになりましたね。

アーティストの表現には、演出側がどれだけ考えても敵わない。だからこそ、できるだけ寄り添い、その想いを画を通して伝えたいと思っています。正解はないからこそ、自分が目指したものがアーティストの表現にピタッとハマった瞬間は、何にも代えがたい快感ですね。そして、終わった後にスタッフみんなで「このカット、よかったね!」と本番を見直しながら飲むお酒も最高です。

音楽番組の可能性は、もっと広げられる

気づけば、音楽番組だけでなく、アーティストのライブDVDやMV撮影等、音楽に関わる映像の仕事ばかりしています。テレビの音楽番組を手がけながら、ライブの監督をしたり、MVの演出をしたりする人は、実はそれほど多くない。でも、自分はその全てを知っているからこそ、そこにしかない面白さを見つけられる気がするし、それぞれのいい部分を掛け合わせながら仕事を楽しみたいと思っています。

新しいことに挑戦したいという想いは常にあって、死ぬまでには映画も撮ってみたい。でも、ゼロから何かを生み出す大変さもわかります。だからこそ、今は「誰も見たことのないコラボレーション」や「これまでになかった映像表現」にこだわって、求められる仕事に全力で向き合いたい。雑で“ヌルッとした”仕事をせず、自分が見てみたいと思うものを真摯に突き詰め、カタチにする。その積み重ねが、結局は音楽番組の新しい可能性にもつながるのだと思います。

“若者のテレビ離れ”が叫ばれて久しいですが、まだまだ面白いことはできる。意外とすごいことをやってるんだよ、こんなにワクワクする世界があるんだよ、と若い世代にもっと伝えられたらいいなとも思っています。テレビだから、ライブだから、MVだから、と枠にとらわれず、もっと自由に、もっと楽しく。そんな未来を描いていきたいですね。

※1 『SMAP×SMAP』
フジテレビ系で1996年から2016年まで放送されていたバラエティ番組。SMAPのメンバーが様々なコーナーに挑戦し、国民的人気を博した。

※2 『MUSIC FAIR』
1964年より放送中の長寿音楽番組。国内外の一流ミュージシャンたちによる豪華なステージ、番組ならではのコラボパフォーマンスが人気。

※3 『FNS歌謡祭』
1974年にスタートした、フジテレビの伝統とも言える音楽番組。様々な音楽ジャンルのアーティストたちが一堂に会し、生放送で多彩なステージを繰り広げる。

松永健太郎

制作センター 第2制作部 演出ディレクター

2008年、共テレに中途入社。『MUSIC FAIR』、『FNS歌謡祭』等地上波音楽番組のほか、忌野清志郎、SMAP、サザンオールスターズ、とんねるずなどのライブDVDやMV等、音楽コンテンツを中心にディレクター・総合演出を手がける。これまで携わった主な作品に、『SMAP×SMAP』、『Love Music』、『PARK』(FODオリジナル)等がある。

(2025年3月取材)