共テレコード
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一年一年を積み重ねて家族の軌跡を描き出す
『密着!中村屋ファミリー』シリーズ 演出・花枝祐樹 インタビュー(前編)
誰もが知るような、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。
人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第四回に登場するのは、歌舞伎の名門・中村屋を35年以上にわたり見つめ続けるドキュメンタリー『密着!中村屋ファミリー』シリーズの演出を手がける、花枝祐樹。
前編では、人気シリーズに携わることになったきっかけやコロナ禍での苦労、そして中村屋ファミリーと築いてきた信頼関係について伺いました。長年愛され続けるシリーズの魅力にも迫ります。
運命を変えた『中村屋ファミリー』との出会い
― 年末恒例の特番となっている『密着!中村屋ファミリー』シリーズ。番組の初回放送は1990年ですが、花枝さんはどのような経緯で携わることになったのでしょうか?
花枝:2006年にアシスタントディレクターとして番組に参加しました。その後ディレクターとなり取材を進めていく中で、2004年よりシリーズ演出を務めていた松木創さん(現在第1制作部)から引き継ぎ、2020年から演出を担当しています。
スタッフの関わり方については番組によると思うのですが、『中村屋ファミリー』における演出の仕事は、取材だけではありません。何を撮るのかを考え、構成を組み立て、ナレーションを書き、編集まで含めて作品全体を設計します。“この時期には何を聞くのか”、“どういう順番で物語を届けるのか”といったところまで含めて、一つの作品として形にしていくのが演出の役割だと思っています。
- この業界に入った最初の頃から、ドキュメンタリーを作りたかったのですか?
花枝:元々はバラエティーを作りたいと思って入ったのですが、最初に配属された部署でこのシリーズを制作していることを知って。初めて地方ロケから完成まで携わった回が、すごく感動的だったんですよね。それで、自分もそういった番組に携わっていきたいと思ったのが、ドキュメンタリーに関わるようになったきっかけです。
- なるほど。ちなみに、花枝さんは銀行でのお仕事から転職されたそうで。珍しいキャリアですよね?
花枝:確かに、数としては多くないかもしれませんね。ドキュメンタリーの先輩方には、同じように転職してこの業界にいらっしゃる方もいらっしゃるんですけど。
銀行員として働いていた約5年間は、厳しいノルマなどの重圧と戦う毎日でした。朝6時に起きて終電で帰宅するような毎日の中で、家に帰ってきて一息ついてテレビを観る時間が数少ない楽しみの一つだったことを覚えています。元々テレビが好きだったんですが、その経験から“作る”仕事っていいなぁと。
止まってしまった日常、それでもカメラは回り続けた
― 花枝さんが『中村屋ファミリー』の演出を引き継いだ2020年といえば、コロナ禍のさなかでしたよね。当時、制作にはたいへん苦労されたのでは?
花枝:本当に大きな転換期でした。それまでは楽屋に入って取材をしたり、同じ空間で時間を共有しながら撮影していたのですが、それがまったくできなくなってしまって。歌舞伎座にも入れず、“これからどうやって撮っていくか”、“どう番組を作っていくか”というところから考え直す必要がありました。
― 具体的には、どう制作を進めていったのですか?
花枝:現場に入ることのできる中村屋のスタッフの皆さんに撮影機材一式とリモート用のPCを託して、小型カメラをボディカメラのように付けてもらったり、Zoomでインタビューしたり。逆に、我々では普段撮れないような空気感の映像が撮れていたときには息を呑みました。特にこのコロナ禍以降の5年間は中村屋のお子さんたちにとっても歌舞伎役者として大きく成長する時期だったので、その見逃せない大切な時間をどう記録するかはとても重要で。中村屋のご家族はもちろん、関係者の方々のご協力が本当にありがたかったですね。
起こった出来事を、どう物語として届けるか
― シリーズに参加して20年。制作において、大切にしていることは?
花枝:ドキュメンタリーだからといって、こちらが出来事を作ることはありません。もちろん、“こんな場面が撮れたらいいな”と思うことはありますが、演出のために状況を作ってしまうと、それはこの番組ではなくなってしまいます。僕たちが考えているのは、“起こった出来事をどう意味づけするか”ということ。その時点では何も起こらないかもしれないけれど、あとから振り返ると大切な瞬間だったということもあります。だからこそ、その瞬間にしか残せないものはできる限り記録しておき、視聴者の皆さんに一番伝わる形で物語を組み立てていきたいと思っていますね。
― 撮影後の編集段階では、どんなことを考えているのでしょう?
花枝:一番時間をかけるのは、仮編集。ここで作品全体の物語が決まるので、もし違うと思ったら、また一から組み直すこともあります。毎年、どこまで密着できたかも違いますし、現場に行ったスタッフから話を聞きながら構成を考えることも。“この一年間を、どういう物語として届けるか”ということを最後まで考え続けています。
「トイレ以外なら何を撮ってもいい」
― 中村屋ファミリーとの信頼関係は、どのように築いてこられたのでしょうか?
花枝:長く一緒に番組を作ってきた積み重ねがあるので、僕自身が新たにこうして信頼関係を築こうと特別に意識してきたことはありません。ご家族も“この人が作品を作るんだな”と受け入れてくださっている部分はあるのかなと思います。
― 勘太郎さんが「全部(映像に)撮られてるんだよ」と、さらっと話す場面が印象的です。密着する側とされる側、改めて特別な関係性というか、特殊な環境ですよね。
花枝:昔、十八代目中村勘三郎さんは、密着取材のカメラマンに「トイレ以外だったら何を撮ってもいい」と言ったことがあると聞きました。それだけ側で取材する人間を信頼してくださっていたということですよね。もちろん、だからといって僕らも、何でもかんでも撮るわけではありません。映さないと判断する場面もありますし、番組がスタートした頃と今では時代も変わっています。ご家族の考え方もアップデートされていますから、その距離感を大切にしながら撮影を続けています。
― 花枝さんは、『中村屋ファミリー』のほかにも様々なドキュメンタリー作品に携わられています。取材相手と向き合う際、共通して意識していることも?
花枝:簡単に返事をしないこと、ですかね。しっかり相手の言葉を咀嚼して、考えた上で反応するというか。何でも、とりあえず「はいはい」って言っていたりすると、こっちの話を聞いてないな?と思ったりするじゃないですか。本音を見せてほしいからこそ、誠実に向き合うことを意識している気がします。
― 少し耳が痛いような…(笑)。日常生活での人との接し方にも通じるものがありますか?
花枝:いやいや、僕も普段から毎回“いつでも本音でいたい”と考えているわけではないですよ。もちろん、時と場合によって普通に愛想笑いもしますし(笑)。
受け継がれていく物語を見つめて
― 長年、『中村屋ファミリー』に携わるスタッフとして、そもそも、本シリーズが長く愛されている理由をどのように分析しますか?
花枝:シリーズが始まった当初は、十八代目中村勘三郎さんという存在そのものが大きなテーマでした。歌舞伎とは何か、中村屋とはどんな存在なのか。そして家族が一丸となってエンターテインメントを作り上げる姿を描いてきました。
一方で、2012年に勘三郎さんが亡くなられてからは、シリーズのテーマも少しずつ変化していったように思います。二人の息子さんが成長し、さらにお子さんが生まれ、親から子へ、子から孫へと受け継がれていく物語になっていったんです。毎年、一年という時間を積み重ねながら、そのときにしか撮れない家族の姿を記録し続けてきたことこそが、このシリーズならではの魅力なのではないかと思います。
― 一つの家族を見つめ続けるからこそ、家族の変化を色濃く映し出せるし、それが何よりシリーズへの魅力につながっているんですね。
花枝:一年では見えないものが、積み重ねることで見えてくることがあります。舞台の一瞬だけを見るのではなく、その人がそこへたどり着くまでに歩んできた時間や人生があるからこそ、一つひとつの場面に重みが生まれるんですよね。『中村屋ファミリー』は、そうした時間の積み重ねを記録できるシリーズ。これから先も、ご家族の歩みを丁寧に見つめながら、その時にしか残せない物語を届けていきたいと思っています。
2026年6月取材
海外で高い評価を受けた2024年放送回は、ロケで思わぬハプニングも…! 後編では、困難を乗り越えた受賞作の撮影秘話をはじめ、ドキュメンタリーを作り上げる醍醐味ややりがい、シリーズへの想いについて伺います。
後編は9月下旬公開
花枝祐樹
制作センター 第2制作部 演出・ディレクター
銀行員として勤務した後、2019年に共テレに入社。
手がけた作品の受賞歴(一部抜粋)
2013年 ATP賞 優秀賞
『ザ・ノンフィクション 転んでも転んでも ~三國清三の上海進出1000日~』
2018年 第46回国際エミー賞 ドキュメンタリー部門 最終ノミネート(入賞)
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』シーズン2
2019年 第60回科学技術映像祭 研究・技術開発部門 文部科学大臣賞
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』
森井大輝(日本/アルペンスキー)【平昌パラリンピック完全版】
2020年 第10回衛星放送協会オリジナル番組アワード ドキュメンタリー部門 最優秀賞
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』
カーティス・マグラス(オーストラリア/カヌー)
2021年 第49回国際エミー賞 芸術番組部門 最終ノミネート(入賞)
『中村屋ファミリー2020 待ってました!勘九郎 七之助 試練と喝采の幕開けSP』
2024年 第52回国際エミー賞 スポーツドキュメンタリー部門 最終ノミネート(入賞)
ドキュメンタリーシリーズ『 WHO I AM』 パラリンピック
など多数。
『密着!中村屋ファミリー』シリーズ
歌舞伎の名門・中村屋を追い続けるドキュメンタリーシリーズ。十八代目中村勘三郎がまだ勘九郎を名乗っていた1990年に放送が始まり、六代目中村勘九郎、二代目中村七之助の幼少期から現在まで、親子三世代の歩みを35年以上にわたって記録してきた。年末恒例の番組として、一年間の家族の姿を真摯に描き続けている。