共テレコード
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現場で受けた刺激を“追体験”してほしい
『密着!中村屋ファミリー』シリーズ 演出・花枝祐樹 インタビュー(後編)
誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。
人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第四回に登場するのは、歌舞伎の名門・中村屋を35年以上にわたり見つめ続けるドキュメンタリー『密着!中村屋ファミリー』シリーズの演出を手がける、花枝祐樹。
後編では、国際的な評価を受けた2024年放送回の舞台裏や作品づくりへのこだわり、そしてドキュメンタリーを撮り続ける想いについて伺いました。ドキュメンタリーだからこそ伝えられる魅力についても語ります。
“硫黄島の奇跡”が生まれるまで
― 2024年に放送された『勘三郎十三回忌特別企画 中村屋ファミリー 父が遺した約束…硫黄島の奇跡』は、アメリカ『ニューヨーク・フェスティバル2026』ドキュメンタリー・The Arts(芸術)部門で銅賞、ドイツ『ワールド・メディア・フェスティバル2026』ドキュメンタリー部門(文化・アイデンティティ)で銀賞受賞と、海外でも高く評価されましたね。
花枝:受賞については、最初はメールで知りました。撮影からだいぶ時間が経っていたこともあり、正直なところピンとこない部分も…(笑)。
ただ、この回の撮影中のことはすごく印象的です。公演ができないかもしれない=撮影ができないかもしれない、という危機的な状況もありましたし。台風のシーズンだったこともあり、島に渡るフェリーが欠航してしまったんです。
- 勘三郎さんの追善興行を締めくくる、硫黄島での野外公演に臨む場面ですよね。現場では、さぞヒヤヒヤさせられたのでは?
花枝:どうなってしまうんだろうとは思いつつ、ただ、現場では不思議と最後まで“きっと大丈夫だろう”という気持ちがあったんですよね。実際、これまでも雨予報だった舞台が晴れたり、台風が予報より早く過ぎたりと、何度もギリギリで撮影できた経験があって。だから今回も、最後まで現場でできることをやろうという気持ちでした。
- 『〜硫黄島の奇跡』は、勘三郎さんと親交の深かった大竹しのぶさんが語りを担当。ご家族との関係性がナレーションの内容にも生かされ、より心に残る仕上がりでしたね。
花枝:ナレーションを担当いただく方は、話題性だけではなく、その年の作品に寄り添っていただける方かどうかを大切にしています。特に2024年は勘三郎さんの十三回忌という節目でもあったので、大竹しのぶさんにお願いしました。作品のテーマと、その方との関係性が重なることで、より作品に深みが生まれると思っています。
最初から最後まで関われることが醍醐味
― 前編でも少し触れましたが、花枝さんはこれまでに数多くのドキュメンタリー作品を担当。これまで手がけた作品の一つ、パラリンピック ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』が2020年に『第10回衛星放送協会オリジナル番組アワード』ドキュメンタリー部門の最優秀賞など、輝かしい受賞歴を複数お持ちですが、様々な作品を生み出してきたからこそ思う、ドキュメンタリー作品を作る面白さややりがいはどんなところですか?
花枝:『中村屋ファミリー』も『WHO I AM』もまさにそうですが、取材から構成、ナレーション執筆までを、分業ではなく一貫して手がけることができる点が大きなやりがいになっていると思います。もちろん試写で皆さんの意見を聞いて反映して、最終的なナレーション直しで作家さんに入っていただくなど各スタッフとの連携は不可欠ですが、1から10までの作業を主体的に決めるのも醍醐味の一つ。自分が作った VTRなんだという、何か血の通った達成感があるというか。
― ドキュメンタリーは、ときに社会の厳しさを切り取るような切実なテーマの場合もありますよね。
花枝:しんどいテーマもあるし、明るいテーマもありますよね。明るいテーマのときは、取材させていただいた人も幸せだし、撮っているこっちも幸せになります。いつでもそういう明るく終われるものであれば、それが一番精神的にいいなとは思うのですが…(笑)。
ドキュメンタリーだからこそ届けられるもの
― ドキュメンタリーというジャンルならではの魅力というと?
花枝:僕はドラマも好きですし、創作だから、実話だからという違いを意識して見ているわけではありません。作品として没頭できるという意味では、どちらも同じです。
ただ、自分が携わっている作品は、『中村屋ファミリー』も『WHO I AM』などのスポーツドキュメンタリーも、その人の人生を描くものです。舞台や競技で輝く一瞬だけではなく、そこに至るまでにどんな時間を過ごし、どんな思いで歩んできたのか。その人生から受ける刺激をよりダイレクトに感じられることこそが、ドキュメンタリーならではの魅力だと思っています。例えば「この人がこんなに頑張っているんだから、自分も頑張ろう」とか、そういった“何か”が、より強く心に届くジャンルなのではないでしょうか。
― ドキュメンタリーで描かれるのは、自分と同じように世界のどこかで生きている“人”なわけですもんね。
花枝:僕自身も取材を通して、そうした人生に触れるたびに刺激を受けています。だからこそ、その刺激を作品としてそのまま視聴者の皆さんにも届けたいですね。その人が歩んできた人生を知った上で、その一瞬を一緒に目撃してもらう。“追体験”と言うと言い過ぎかもしれませんが、その場で起きた出来事や、その場に流れていた空気をリアルに感じてもらえたらうれしいです。
これからも、“人”と共に…
― ドキュメンタリー作品を撮り続けていく上で、今後も大切にしていきたいことを教えてください。
花枝:僕は、ドキュメンタリーだから特別というより、人の人生を描くことに魅力を感じています。舞台でもスポーツでも、その一瞬だけを見ているわけではありません。そこに至るまでの人生があるからこそ、その瞬間が特別な意味を持ちます。
ただし、ドキュメンタリーでは、いつもドラマチックな出来事が起きるわけではありません。その中でいかに興味を持ってもらえ、「この先も見たい」と思える物語をどう見いだし、描くことができるか。『中村屋ファミリー』も同じで、そのとき、その人にしかない物語を丁寧に記録していきたい。そして、現場では常に“心を動かされるようなもの”を探し、見てくださる方へ届けていきたいと思っています。
2026年6月取材
花枝祐樹
制作センター 第2制作部 演出・ディレクター
銀行員として勤務した後、2019年に共テレに入社。
手がけた作品の受賞歴(一部抜粋)
2013年 ATP賞 優秀賞
『ザ・ノンフィクション 転んでも転んでも ~三國清三の上海進出1000日~』
2018年 第46回国際エミー賞 ドキュメンタリー部門 最終ノミネート(入賞)
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』シーズン2
2019年 第60回科学技術映像祭 研究・技術開発部門 文部科学大臣賞
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』
森井大輝(日本/アルペンスキー)【平昌パラリンピック完全版】
2020年 第10回衛星放送協会オリジナル番組アワード ドキュメンタリー部門 最優秀賞
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』
カーティス・マグラス(オーストラリア/カヌー)
2021年 第49回国際エミー賞 芸術番組部門 最終ノミネート(入賞)
『中村屋ファミリー2020 待ってました!勘九郎 七之助 試練と喝采の幕開けSP』
2024年 第52回国際エミー賞 スポーツドキュメンタリー部門 最終ノミネート(入賞)
ドキュメンタリーシリーズ 『WHO I AM』 パラリンピック
など多数。
『密着!中村屋ファミリー』シリーズ
歌舞伎の名門・中村屋を追い続けるドキュメンタリーシリーズ。十八代目中村勘三郎がまだ勘九郎を名乗っていた1990年に放送が始まり、六代目中村勘九郎、二代目中村七之助の幼少期から現在まで、親子三世代の歩みを35年以上にわたって記録してきた。年末恒例の番組として、一年間の家族の姿を真摯に描き続けている。
『勘三郎十三回忌特別企画 中村屋ファミリー 父が遺した約束…硫黄島の奇跡』
企画協力:田中 亨(ファーンウッド)
監修:吉崎典子
構成:武田 浩/松木 創
ディレクター:藤井雄真/中澤 望
演出:花枝祐樹
プロデューサー:吉田岳人/後藤 博
チーフプロデューサー:西村 朗
出演:中村勘九郎/中村七之助/中村勘太郎/中村長三郎/前田 愛 ほか
語り:大竹しのぶ
ナレーション:谷岡慎一(フジテレビアナウンサー)
パラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』
WOWOWとIPC(国際パラリンピック委員会)の共同プロジェクトとして2016年にスタートした、25ヵ国40組の世界最高峰のパラアスリートに迫るパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ。