共テレコード
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“報道×ドラマ”の描き方
『1995〜地下鉄サリン事件 30年 救命現場の声〜』
髙丸雅隆プロデューサーインタビュー(前編)
誰もが知る、テレビ界に燦然と輝く映像コンテンツがあります。
人々の心に刻まれ、歴史に残るそれらの作品を創出してきたレジェンド達に撮影当時のストーリーを語ってもらう“共テレコード”企画。
第五回に登場するのは、地下鉄サリン事件から30年という節目に放送され、国内外で高い評価を受けたドキュメンタリードラマ『1995〜地下鉄サリン事件 30年 救命現場の声〜』のドラマプロデューサー・髙丸雅隆。
報道が積み重ねてきた“事実”を、ドラマという表現でどう描くか。前編では、作品が生まれるまでの背景や、プロデューサーとしての葛藤についても語ってもらいました。
“報道×ドラマ”が多くの人の共感を生む
― ギャラクシー賞テレビ部門をはじめ、日本民間放送連盟賞の優秀賞、ニューヨーク・フェスティバルの金賞など、国内外で高く評価された『1995〜』。まず、こうした受賞をどう受け止められましたか?
高丸:取材に基づいた骨太な作品がしっかりと評価され、それに関われたというのが素直に良かったなと思いました。ドキュメンタリードラマの制作は僕にとって3作品目で、これまでもエントリーはしていたんですが、ニューヨーク・フェスティバルでの受賞は今回が初。「やっと賞をもらえたな」という感覚です(笑)。
- 評価された点は、どう分析されていますか?
高丸:地下鉄サリン事件は、これまでもテロや新興宗教など、いろいろな切り口で描かれてきました。でも今回は、救命現場という側面から事件を描いた。未公開だった当時の音声を使ってリアルに描いたことが良かったんじゃないかと思います。“ヒーロー”というわけじゃないですけど、登場人物みんなが必死にパニックに立ち向かっていくドラマも、多くの方に受け入れられたんじゃないかなと。
- 報道とドラマを組み合わせた形式も、評価に繋がった?
高丸:報道チームも言っていましたけど、「報道特番だけだと見てもらえないけど、ドラマにすると見てもらえる」。情報そのものは報道番組で伝わるはずなんだけど、やっぱりドラマのほうが共感してもらえる。そういうところも、受賞に繋がった理由の一つなのかもしれないですね。
事実はこう。でも、ドラマとしてはどうする?
― そもそも『1995〜』は、どういった経緯で制作が始まったのでしょうか?
高丸:フジテレビの報道局の方たちが地下鉄サリン事件の取材を重ねていて、そこから共テレのドラマ部門に「こういうものを作りたい」というオーダーがあったんです。
これまでに携わったドキュメンタリードラマ2作品も、今回と同じくフジテレビの報道チームと組んで制作したもの。1本目が『30年目の真実〜東京・埼玉連続幼女誘拐殺人犯 宮崎勤の肉声〜』(※1)で、その後、2本目の『プリンセス美智子さま物語 知られざる愛と苦悩の軌跡』(※2)があり、今回という流れですね。
― 髙丸さんは“ドラマプロデューサー”という立場でした。通常のドラマと、ドキュメンタリードラマのプロデューサーの役割に違いはありますか?
高丸:ドラマ部分をプロデュースしているという意味では、普段の仕事と大きくは変わりません。ただ今回は、すべてがフィクションではなく、報道に基づいた“事実”があるので、「ここを描く」「ここは描かない」という根幹の取捨選択やジャッジはフジテレビでやっているという違いがあります。
ドラマにするための調整役という表現が近いかもしれません。報道の各担当者や取材をさせてもらった当事者の皆さんが持っている「実際はこうだった」という事実やこだわりを、ドラマとしてどう落とし込んでいくか。その調整をするのが、今回の僕の役割でした。
― その調整は、脚本作りの段階から行っていくのですか?
高丸:もちろん。実際、“科捜研の研究者は、警察発表よりもかなり早い段階で電車内にまかれたものがサリンだとわかっていた”という描写は、科捜研の方にチェックしてもらった際にいただいた指摘で追加されたものです。
ドラマとして考えると、パニックが起きて、「これは何だ?」「どうする?」となって、「あ、サリンだ」と判明する。そのあと「でも対応する薬がない、どうしよう」となって、探して、集まって、助かった――という流れのほうが構成として収まりがいいんです。
― つまり、ドラマとしては“こうしたい”という展開と、実際に起きたことが違っていた?
高丸:ドラマとして表現するだけなら、いくらでもできるんです。でも今回はドキュメンタリードラマとして、事実は事実として伝えないといけない。そこは折衝しましたね。
譲れなかったのは、“伝わるリアリティ”
― 今作で初公開となった“無線音声”は、大きなポイントになっています。
高丸:番組を作るには新しいことが必要になってくる。何かそういった要素はないか?と探す中で、報道チームが地下鉄でのやり取りの音声を見つけてくれて、それを元に再現しましょうということがまとまっていきました。
― ドラマ部分のセリフは、実際の音声にかなり忠実だなという印象を受けました。
高丸:基本的に、音声を文字起こししたものを使っているので、セリフ自体はかなりリアルなものになっていると思います。
ただ実際の音声は、僕らも聞いてびっくりしたんですけど、意外とみんな冷静に話しているんですよね。特に指令室の人たちは直接現場を見ておらず、状況が掴めていなかったからだと思いますけど。ドラマにするには、多少の起伏は必要。実際のテープのまま、事実をそのままなぞって淡々とやると、熱が入っていない演技に見えてしまうと思ったんです。
― ここにも、事実をドラマとして描くための細やかな調整があったのですね。
高丸:リアルそのものではなく、より“伝わるリアリティ”を選んだというか。こっちのほうが真に迫って、視聴者に伝わるんじゃないかということで、メリハリを意識して演出していきました。
忘れられない、30年前のあの日
― ちなみに、髙丸さんご自身にとって、地下鉄サリン事件は特に思い入れのある事件だそうですね。
高丸:当時、僕はまだフリーランスで、『世にも奇妙な物語』の撮影をしていたんです。1995年の3月20日、まさに東京の丸の内でその撮影をしていました。
もともとその日はタモリさんが出る予定ではなかったんですけど、監督が「ロケの現場にタモリさんを呼びたい」ということになって、2日くらい前にスケジュールが変わったんですよ。そのおかげで、僕が霞が関で乗り換える頃には、すでに事件発生後で駅が封鎖されていたんです。
― 偶然のスケジュール変更によって、事件に巻き込まれずに済んだ?
高丸:そうなんですよ。乗り換えができなかったのでホームから地上に出たら、まあまあな騒ぎになっていて。携帯にも何人かから「大丈夫か」と連絡が来たんですけど、その時点では何が起きているのかわからなかった。
タモリさんを現場に呼ぶことがなく、もとのスケジュールのままだったら、もしかしたらサリンを吸い込んでいた可能性すらある。30分違ったから封鎖されて、霞ヶ関で乗り換えできなかったんですよね。それと、事件の日は僕、自分の誕生日でもあるので、より印象深くて。
― そうだったのですね。そして30年後、その事件を描く作品に携わることになったと。
高丸:そうですね。実はこれまでにドラマ化の話があったときは別の人が監督を務めることになったので、自分の中で若干引っかかってもいて。「いっぱい事件のことを調べたんだけどな。自分はやらなかったな」と。
― そういう想いもあった中で、今回、ようやくその機会が巡ってきたんですね。
高丸:今回自分にその役回りがきて、言い方は変ですけど“この事件が自分のところに戻ってきた”みたいな感覚になりました。消化できたというか。
3月20日を迎えるたびに、「今年は何年目だな」と数えていたんですけど……。今回、ドキュメンタリードラマという形で作品にできて、もう数えなくてもいいかなって。ずっとどこかにあった気持ちに、区切りをつけられたというか。一つの節目になったなと思っています。
2026年8月取材
後編では、短期間で作品を完成させるまでの舞台裏や撮影現場でのハプニングなど、知られざる制作秘話に迫ります。さらに、髙丸さんのものづくりを支える“好奇心”についてもたっぷり伺いました。お楽しみに!
後編は11月初旬公開予定
※1 『30年目の真実〜東京・埼玉連続幼女誘拐殺人犯 宮崎勤の肉声〜』
2017年に放送された、東京・埼玉連続幼女誘拐事件を題材にしたドキュメンタリードラマ。独占入手した宮崎勤元死刑囚の肉声を軸に、当時の捜査関係者への取材や報道映像を交えながら、事件を追った刑事たちの知られざる闘いと、宮崎の人物像を浮き彫りにする。
※2 『プリンセス美智子さま物語 知られざる愛と苦悩の軌跡』
2019年に放送された、上皇后・美智子さまの歩みを題材にしたドキュメンタリードラマ。美智子さまの想いを記した貴重なノートを元に、ご成婚から皇太子妃としての日々まで、皇室に嫁いだ美智子さまが経験された愛と苦悩、その知られざる素顔に迫る。
高丸雅隆
制作センター 第1制作部 プロディユーサー
1993年よりフリーランスでテレビ番組制作に携わり、2006年に共テレへ入社。
これまでに手がけた作品に、『世にも奇妙な物語』シリーズ、ドラマ『ばらかもん』、『ストロベリーナイト』、『危険なビーナス』など多数。
『1995〜地下鉄サリン事件 30年 救命現場の声〜』
2025年3月21日(金)21:00-22:52 フジテレビ系列にて放送
脚本:国井 桂
企画・プロデュース:山﨑貴博(フジテレビ)
編成:安永英樹(フジテレビ)、森 政貴(フジテレビ)
ドラマプロデューサー:髙丸雅隆
チーフプロデューサー:山下高志(フジテレビ)
演出:都築淳一
出演:津田健次郎、桜井日奈子、泉澤祐希、味方良介、石川 恋、結木滉星、竹財輝之助・飯田基祐、山崎樹範 ほか
1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件を題材にしたドキュメンタリードラマ。自らの命も危険に晒される中で懸命に救助に奔走した者たちの姿を、独自入手した地下鉄内での実際の無線音声を交えながらリアルに描き出す。
受賞歴
2026年
ニューヨーク・フェスティバル2026 ドキュメンタリー・Docudrama(ドキュドラマ)部門 金賞
2025年
日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビ報道 優秀賞
第41回ATP賞テレビグランプリ 2025 総務大臣賞 ノミネート
第62回ギャラクシー賞 テレビ部門 選奨